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プロジェクト例

成長可能性を可視化するアセスメント開発への協力:株式会社パフ「Growth Believer」の事例

コラムプロジェクト例
「成長可能性」に期待して新規学卒者を採用する企業は多いでしょう。しかし一体、「成長可能性」とは何でしょうか。私たちはそれをどのように見極めればいいのでしょうか。ここでは、そのことに取り組んだプロジェクトを紹介します。株式会社パフ(以降パフ社)によって「Growth Believer®」(以降GB)と名付けられたアセスメント開発プロジェクトです。株式会社ビジネスリサーチラボは、全体の思想設計、測定項目と測定ロジックの構築といった観点からGB開発に協力しました。

1.プロジェクト概要

弊社がGB開発に協力することになったきっかけは、新卒採用支援事業を手がけるパフ社からの相談でした。学生や若手社員の「伸びしろ」を見える化できないか。それをアセスメント(検査)に落とし込み、採用・育成に携わる企業に利用してもらいたい。そのような相談を受けたのです。

それから実に3年の歳月をかけ、成長可能性を可視化するアセスメントの開発を進めてきました。弊社とパフ社による長い開発の道のりは、「成長可能性を表す個人特性」を見出そうとするところから幕を開けました。

私たちが「成長特性」と呼んだ、それらの個人特性の候補を発見する舞台となったのは、パフ社が事業のひとつとして展開している「100×10チャレンジ®」(ひゃくてんチャレンジ)です。100×10チャレンジは一定期間、学生が多数の社会人を訪問し、訪問内容と結果を振り返る教育プログラムです。

私たちは、100×10チャレンジに参加する学生を対象にした調査を繰り返しました。並行して、成長に関連する幅広い学術研究を読み込みました。また、弊社とパフ社の間で議論の機会を何度も設けました。このような地道なプロセスを経て、私たちは成長特性をあぶり出すことに成功しました。

その後、成長特性を測定するアセスメントの内容を設計しました。その上で、学生と社会人を対象に、大規模な定量調査を複数回に分けて行いました。私たちは一連の調査を通じて、段階を踏んで、信頼性と妥当性を検証してきました。

以上のプロセスに基づいて構築したアセスメントツールは、パフ社によって「Growth Believer」(GB)と命名されました。GBは今、システムの細部を作り込んでいる最中であり、2019年春のリリースを予定しています。

2.アフタートーク

成長を巡る現状とGBの意義

日本の新卒採用の多くは、入社後の育成を前提にしたポテンシャル採用です。企業は未就業者である新規学卒者を受け入れ、社内で時間をかけて成長を支援します。ところが昨今、この仕組みは二つの点において必ずしも十分に機能しなくなってきています。

第一に、採用活動の中では入社後の成長可能性よりむしろ、目の前の学生の「現在の振る舞い」が合否の判断に少なからぬ影響を与えています。例えば、流暢に志望動機を語る学生と寡黙な学生では前者が選ばれやすいでしょう。後者の方が成長可能性が高いとしても、です。

第二に、入社後の職場における人材育成も万全とはいえず、弱体化してきています。OJT(On the Job Training)の機能不全はしばしば指摘されるところです。その背景の一つには、業務に忙殺される日常があります。忙しくて育成に時間と労力をかけられないのです。

このような状況において、弊社が開発に協力した、パフ社のアセスメント「Growth Believer」(GB)の果たす役割は大きいでしょう。GBを用いれば、学生・若手社員の成長可能性を測定し、目に見える形へと変換できるのです。

GBの普及は、本来的に必要な成長可能性の見極め・支援に対する関心及び実践を促すに違いありません。GBの利用企業が増えれば、若者の成長を信じる人=Growth Believerも増えるでしょう。そのことは、企業の採用・育成における成長支援機能を強化することに繋がります。

「言葉」を提供するアセスメント

ところで、アセスメントを開発・実施する意義というと、ある能力・態度・資質といった、目に見えにくいものを「数値化」できる点に光が当てられがちです。もちろん、こうした点は意義の一つではあります。けれども、他にも重要な点があります。

アセスメントのアウトプットには「数値」だけでなく、カテゴリー名やその定義をはじめとした様々な「言葉」が表示されます(ここでいうカテゴリーとは、例えば「知的好奇心」のように、数値で表現される能力・態度・資質のひとまとまりの呼び名を指します)。

実は、アセスメントを世の中にリリースするというのは、そこに含まれる「言葉」をリリースすることでもあります。GBの文脈で言えば、「成長可能性を語る言葉」も併せてリリースされます。

アセスメントは数値化のツールにとどまらず、ある能力・態度・資質に関する「言葉」を提供します。すなわち、アセスメントは「測定ツール」であり、かつ、「コミュニケーションツール」でもあるのです。その意味で、少し大げさな言い方をすれば、社内の人々によるコミュニケーション設計も伴うのが、アセスメント開発です。

GBは成長可能性を測定するツールであると同時に、企業で働く人々が若者の成長についてコミュニケートすることを促すツールでもあります。弊社では、来春のリリース以降、GBが実際にそのように活用されていくことを願っています。

(了)

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