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コラム

働き方に関する課題分析:「働き方改革」のリサーチ事例

コラム
本稿では、株式会社ビジネスリサーチラボが実施した、C社に対するリサーチ事例を紹介します。その上で、事例から得られる含意を記述します。本リサーチの主担当は、弊社代表取締役の伊達洋駆でした。


1.プロジェクト概要

(※一部改変しています)

C社の経営企画部から「働き方の課題を分析する」リサーチの依頼が弊社に入りました。C社では、5年前から「働き方改革」を進めていました。この度、これまでの効果を把握すると共に、今後の取り組みを検討する情報を得るべく、全社員対象のアンケート調査を実施していました。

弊社の役割は、既にC社内で実施されたアンケートにおける自由記述の回答を分析・考察し、C社の働き方・働き方改革の課題を抽出することにありました。C社のアンケートには、C社の働き方の現状、及び、働き方改革の推進状況を問う、自由記述形式の質問が並んでいました。

弊社は、それらの設問に寄せられた約1000名の回答を定性・定量の両面から分析・考察しました。そして、C社がどのような課題に直面しているのか。C社の経営企画部に対してフィードバックしました。

アンケートのデータを読み解いた結果、およそ50の課題が明らかになりました。そのうちの一部を紹介しましょう。​

  • C社では、働き方改革を推進する行動をとっても、評価が高まらないどころか、社員自身が損失を被る構造になっていた。「働き方改革で要請される行動」と「旧来から引き継がれた評価制度」の間に乖離があったからである。こうした事態に対する社員の反発は大きく、働き方改革に対するモチベーションは低い状態だった。
  • 働き方改革を進めることで、最終的に自社はどこへ向かおうとしているのか。社員には総じて「目的地」が見えていなかった。実際に、目的地はトップからもミドルからも提示されていなかった。そのため、会社の推進策に対して、「小手先の手法論が先行している」と批判する社員がいた。
  • C社は部門横断的なチームを編成して仕事を進めることが多い。しかし、他部門のメンバーの業務状況が適切に共有されていなかった。更に、他部門のメンバーの保有する技能も十分に把握されていなかった。よって、プロジェクトへの人員配置は場当たり的になっていた。そのことが人的資源の最適配置を妨げ、生産性を低下させる要因になっていることが分かった。

本リサーチプロジェクトにおいては、これらの課題分析の結果をC社の経営企画部に伝えた上で、課題間の関係性を検討し、各課題の深刻度を評価しました。続いて、深刻性の高い課題に焦点化して、ディスカッション・ベースで今後の対策を練りました。

 

2.アフタートーク

以下、C社のリサーチプロジェクトを担当した伊達が、プロジェクトの実施において見出した含意を紹介します。

社会的に大きな注目を集め、既に取り組みを進めている企業も多い働き方改革。本プロジェクトを通して、「働き方改革を巡る基本構図」を改めて発見することができたように思います。

働き方改革は元をたどれば、社会・市場からの要請を受けて始まることが多いと言えます。しかし、それらの要請内容は、しばしば各社がそれまでの企業活動で蓄積してきた歴史と一致しません。 企業はそれぞれ経路依存的に自社の歩みを積み重ねてきています。それは、その時々の社会的要請とイコールではありません。したがって、働き方改革の実態を紐解くと、社会的要請と社内制度の乖離が散見され、それらの地点で、しばしば深刻なジレンマが生じていました。

例えば、C社では、このようなことがありました。C社は働き方改革の一環として、「残業時間の抑制」を進めようとしていました。

具体的には、残業時間を減らすように各職場に繰り返し通達する。勤務のログ管理を徹底する。義務ではないものの、削減目標を掲げる。削減目標を下回る部署のマネジャーにヒアリングを行う。こうしたアクションを実施していました。

けれども、残念ながら、それらは実を結んでいませんでした。何故でしょうか。アンケートの記述の中に、ヒントが隠されていました。

C社では、「残業時間を減らさなければならない」という号令が社内に響き渡っていました。一方で、残業時間を減らしたからといって評価されるわけではありませんでした。それどころか、会社の号令に従って残業時間を削減した社員は、残業代が減っていたのです。

「残業時間の抑制」は社会的要請の一つです。確かに、長時間労働が常態化すれば、心身の健康を害する恐れがあります。ワークライフバランスも守れません。その意味で、合理性のある要請だと言えます。

実は、C社の社員は、残業時間を減らすこと自体には賛同の意を表明していました。しかし、残業時間を減らすことが評価されないばかりか、これまで得ていた残業代を削減されるのであれば、そこまでして残業時間を減らそうとは思わない、と考えていたのです。

残業手当を「生活費」として受け止める社員が多い企業はC社に限らないでしょう。C社でも、そうした認識は今に始まったことではありません。長い時間をかけて、制度を伴いながら定着・維持されてきました。

C社では、社内制度が社会的要請と衝突し、ジレンマを生み出していました。ここにおけるジレンマは、「残業時間抑制に対する非協力的な姿勢」という状態を作り上げていました。

働き方改革を進めていこうとすると、「社会的要請と社内制度のジレンマ」が各所で発生します。それらのジレンマは、往々にして潜在的で不可視的です。注意深く観察・分析しなければ見落としかねません。

重要なことに、社会的要請と社内制度のどちらかが誤っているわけではありません。二者択一の問題でもありません。両者は働き方改革を推進する中でぶつかり合い、予期せぬ結果をもたらします。

働き方改革を推進する担当者は、「社会的要請と社内制度のジレンマ」を感度高く見出す必要があります。ジレンマを見つけたら、それに対処する方法を都度丁寧に検討しなければなりません。そのようなことを改めて感じたC社でのリサーチ経験でした。

(了)

#働き方改革 #伊達洋駆

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