出版記念対談:『オンライン採用』の行方(セミナーレポート)

株式会社ビジネスリサーチラボは、代表取締役 伊達洋駆の著書『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)の刊行を記念し、2021年4月19日(月)に出版記念対談「『オンライン採用』の行方 」を開催しました。

本書の推薦文を寄せていただいた服部泰宏氏(神戸大学大学院)をお招きし、本書の内容を素材に、COVID-19前後の採用活動の変化やこれからの採用活動等のテーマについて対談を行いました。

本稿では対談の様子をレポート形式でお伝えします。




学術的なインプットの方法


伊達:


早速ですが、服部さんから、『オンライン採用』を読んでどのような感想を持ったかお聞かせください。


服部:


推薦文を書くときに文章を拝見して思ったのは、「どうやってインプットしているのか」ということです。伊達さんぐらい色々な実践をしていれば、「自分はこう思う」という(持論を展開するような)本も書けたと思います。ですが、そうではなく学術的なところをちゃんと紹介している。逆質問になりますが、こういうテイストの本を書いた背景を教えてください。


伊達:


まず、私が修士課程で研究していたテーマが、「コンピューターに媒介されたコミュニケーションにおけるリーダーシップ」だったこともあり、オンライン化の研究に多少の土地勘があった点には言及しておくべきですね。


ただ、当時と今のオンライン環境は異なります。その後の研究をキャッチアップしなければなりませんでした。とはいえ、ビジネスリサーチラボでは、研究のレビューがサービスの一部になっています。そのため、キャッチアップはすんなり進みました。


それに実のところ、「私はこう思う」という本は書けなかったと思います。というのも、オンライン採用について、あの段階で知識を体系化できるほどの経験を積んでいた人は極めて希少だったはずだからです。


服部:


なるほど。私が2016年に『採用学』を書いたときは、アメリカではこう、データではこうというのをほぼそのまま持ってきて、だから日本もこういう議論をしていきましょう、というぐらいで何とかなりました。まだ日本に採用の議論があまりなく、これから議論していかなければいけないときに、かの国ではどうなっているかを紹介する、ということができたんですが、この本ではそれがしにくかっただろうと想像しています。


つまり、オンラインコミュニケーションの研究はあり、少しずつコロナの影響に関する研究も出始めているけど、今の状況でオンライン採用の研究は、ほとんど誰もやっていないか、まだ雑誌に載ってない。それらを持ってくるのは大変だったのではと推測していました。ただ、今の話で、背景にある考えを理解しました。



採用に関する本のマッピング


服部:


私は本を読むとき、その領域を分類して、自分はどこをやってきたのか、どこに隙間があるのかを考えるのが好きなんです。そうした考えに基づいて、採用に関する本を分類したのがこちらの図です。



縦軸・横軸で4つの象限に分けています。縦軸は議論のレベル。上側のように、採用についての考え方・考えるべき根拠を伝えていく本がある一方で、下側のように「こうすればいい」「面接ではこんな質問をしましょう」というように我々が「処方」と呼ぶような、プラクティカルな提案をする本もあります。


横軸について。左側は、「現実はこうなっています」「○○という会社でこういう好事例があります」という紹介。右側は、ただ紹介するだけではなく、「こういうものがこれから必要だ」と提案していく。紹介と提案で、若干右のほうがメッセージ性は強くなります。


一般的な売れ筋の本を考えると、図下部の辺りになると思うんです。明日使える手法が書かれている、この会社はこうやっているという紹介など。


左上にあるのは、「今はこういうものが最先端です」「これが○○という会社ではすごくうまく回っています/だけどあなたの会社で当てはまるかどうかは分からない」というスタンスを取るものです。


右上は、エビデンスや科学的データに基づきながら、「これからはこう考えるべき」というメッセージ性を出そうとしているもので、私の本はここに位置します。伊達さんの前著『採用の絶対ルール』は、「採用はこういう考え方や方法が大事」ということを述べているので、右下に位置するのではないでしょうか。


そう考えると、今回の本で伊達さんが狙われたのは、右下のほうに軸足を残しつつ、もう少し右下から左上のほうに移行しようということなのかなと考えています。この辺も含めて、どんなふうにポジション取りを意図しましたか。


伊達:


オンライン採用については、2020年から取材を受けていました。そのときに、この図でいうと右下の処方に近い話をしてほしいというリクエストが多く見られました。オンライン面接ではどう人を見極めればいいのか、どんな質問をすればいいのかなど、具体的な課題に対して話していくといったものです。


取材を受けていく中で、本の要素がたまっていました。それらを1冊の本とすべく組み上げていくと、図で言えば『採用の絶対ルール』辺りに位置する本になります。


しかし途中から、もう少し処方にとどまらない、例えば採用チームの共同、雇用状況や雇用システムの変化など、これからの採用を考える上で考慮すべき観点も入れようという方針に変わりました。結果、右上に移動していったんでしょう。



『オンライン採用』と『採用学』の比較


伊達:


服部さんが『採用学』を書かれたときも、私が『オンライン採用』を書いたときも、採用の状況は似通った状況にあったと感じます。『採用学』の場合、16卒採用を巡って大きな変化が渦巻いていました。『オンライン採用』では、コロナ禍という変動が起きています。


つまり、大きな変化において執筆した点が共通しています。そうした中、『採用学』も『オンライン採用』も、どのような知識を頼りに採用を考えていけばいいのかという提案をしていますね。


服部:


私が『採用学』を執筆していたのが2015年で、一部の会社が新卒採用において面白いことをやっているとニュースになっていた時期です。これから採用が面白いし大変だという時代に差し掛かりつつある一方で、そこに対する指南がありませんでした。


逆に、今は採用が大事なコンテンツであることが理解され、本も出始めてきています。しかし、2020年から採用がオンライン化され、ルールが変わったという話があります。その中で出た伊達さんの『オンライン採用』は、『採用学』とは背景が異なる部分もありますね。


『採用学』にはオンラインの話はほとんど出てきません。採用においては会うことが前提で、その上でどんな能力を見極めるかという議論でした。対して、オンライン化の文脈を踏まえた上で、変わったものと変わらないものは何かが『オンライン採用』では議論されています。そこが微妙な差異になっています。


伊達:


その本が置かれた文脈が、議論の適用可能性に影響を与えます。そして、文脈に関する情報は多くの場合、「はじめに」に書かれていますね。執筆のきっかけや問題意識などを見れば、それぞれの本の特徴がわかりやすいと思います。



オンラインと対面の相対化


伊達:


今度は『オンライン採用』の中身についてお話しましょう。採用のオンライン化が進み、企業はどう対応していけばいいのかという点です。


『オンライン採用』を書きながら思ったことがあります。対面の状況と比べたときにオンラインの不足点を指摘する声が多いことです。オンラインは意思疎通しにくい。感情が分かりにくい。そういった短所を如何に補うかという話がしばしば見られます。


このアプローチ自体を否定するものではありませんが、対面とオンライン、それぞれのやり方の長所を活かす方が良いのではと思います。例えばオンラインの長所として、話している内容がちゃんと理解できる点があります。逆に対面は、相手の人柄などが伝わりやすいという長所があります。


短所を補うよりも長所を活かす発想で、オンラインと対面を組み合わせる方法を検討していただきたい。そのことが、『オンライン採用』を書く上で頭の中にあったことでした。


服部:


その通りだと思います。私たちも教育の場で「オンラインに切り替わってどうするか」という“対応”の議論ばかりしています。しかし、オンラインと対面を対立するものではなく、一方の良いところから、逆に他方の良いところをもう1回見いだす。そう捉えた方が生産的であるということを、この本を読んで改めて思いました。


学生がよく言うのが「会うことがどれだけ良いことかに気付きました」ということ。オンラインで進める中で、会うことが如何にプレミア化されているか。これは、オンラインか対面かという発想ではない視点です。


『オンライン採用』の裏にあるメッセージは、オンラインと対面の対立構造から脱却し、うまく組み合わせたり、お互いの良さを相対化したりすれば気付けることがある、というところにあるのではないでしょうか。


伊達:


「会ったときによかった」という感想は、会えないからこそ出てきたわけですよね。対面はこういうものだ、オンラインはこういうものだと決めつけずに、その組み合わせ方によって味わいが違ってくるものだと思います。


例えば、オンラインが続いた後の対面は、対面のみのときと意味合いが違ってきます。組み合わせるときは、その点について考えていただくといいと思います。



様々な知識を持つことの重要性


伊達:


対立構造にしないという点に加えて、上下関係で捉えないのも大事です。対面が当たり前=いいもの、オンラインは足りない=だめなものと捉える人もいます。しかし、『オンライン採用』でも触れた通り、実は対面はそんなに完璧でもありません。


対面に慣れていたため、違和感を覚えなかっただけです。オンラインという選択肢が出てきたことで、これまでの対面での取り組みが上手くいっていたのかを改めて省察する機会にもなりますね。


服部:


今の話の延長線上ですが、アメリカの企業にヒアリングをすると、採用担当であっても、評価や育成制度などについて研修などでインプットしているんですね。


いいスタッフそろえるためのオプションとして、新卒、中途、あるいはアルムナイがある。ただ、それだけではなく、評価、育成、配置というオプションもあります。そのことを頭の中で理解した上で、「では、あなたは採用担当として何ができるのか」が強調されます。


そういう意味で、物事を全体として捉えた上で、でも自分はここが専門だ、採用もいろんなオプションがある中で、今回この時間はオンラインで行う、なぜならば、という思考が大事だと思います。


伊達:


私の経営するビジネスリサーチラボでは採用だけでなく、人事にまつわる様々なテーマでサービスを提供しています。幅広い知識を持っていると、採用について検討する際に有益ですし、逆に、他の領域のことを検討する上で、採用の知識が活きることもあります。知識の相互交流ができるように、水平的に多様な機能や知識を持つことが重要になりますね。



研究知見の翻訳と副作用


伊達:


質疑応答に入る前に、研究と実務の関係について触れておきましょう。実務の中で研究知見を用いていくときに、何が大事になるのかというお話です。こちらについて如何でしょうか。


服部:


例えば採用では、面接を構造化することが、能力の見極めや将来の予測力に精度を持つと言われています。これ自体は間違っていないし、恐らくいろんな国で通用することだと思います。


ただ、これを無条件に信じて、いつでもそれをやればいいかというと話は違ってきます。会社の文脈や業種、あるいは会社の人気度などによって変えていく必要があります。極端な話をすると、全く構造化せず、その場のやりとりに終始した方が良いケースもありうるんですね。


こういうややこしさがあることを学術研究ではあまり言いません。私も伝えるのは非常に難しいと感じています。だからこそ、『オンライン採用』のような本が重要で、いったん学術的な知識を咀嚼した人が、日本の文脈を知っている中で翻訳し直して伝える必要があります。


伊達:


確かに、構造化面接が適性を見極める上で精度が高いことは、何度も検証されています。ところが、実際に構造面接を行っている企業は実は少ないんですね。これは、ある研究の知見を実務に応用しようとすると、それが新たな問題を生み出す可能性があるからだと考えています。


研究知見は一つの薬になりますが、薬には副作用があります。例えば、構造化面接の場合、確かに見極めの精度を上げるという効果があります。一方で、対面で構造化面接を行うと、候補者にとって何か味気なかったり、自分がテストされていると感じたりしてしまいます。そうなると、その企業に対する志望度が高まりにくいといった副作用が生まれます。


研究知見を伝える際には、どういう副作用があるのかを併せて伝えていく必要があると思います。副作用の記述がなければ、実務的には使いにくいものになります。「こういう副作用が起こるけど、効果に意味があると判断する会社は導入してください」と提案することが大事です。


副作用の内容が事前に分かっていれば、それに対応できるかもしれません。副作用は仕方ないと判断して使っていくこともできます。研究知見そのものもそうですが、その副作用の内容が、しっかり人事の世界で広まっていくと良いと思います。



オンラインと対面のハイブリッドと説明責任


伊達:


それでは、質疑応答に移ります。「オンラインと対面のハイブリッドとは、何のハイブリッドなのか」というご質問を参加者からいただいています。


『オンライン採用』の中では、オンラインと対面のハイブリッドを幾つかの意味で用いています。両者の特徴を照合することによって採用の内省を深める。これが、1つ目のハイブリッドです。2つ目は、順番や組み合わせ方によって、オンラインと対面、それぞれの持つ意味合いが違うことも考慮して採用を組み立てるという点です。


服部:


『オンライン採用』の第3章で、時間という概念が出てきたことが重要です。採用についてアメリカで議論されているのが、カスタマージャーニーやエンプロイーエクスペリエンスと同じように、キャンディデート(候補者)にもエクスペリエンスがあるという話。ここでいうエクスペリエンスは、いつ、誰が、この会社の説明をするのか、などということを指します。


時間という概念は、非常に注目されてほしいですし、もっと議論しなければならないとも思います。伊達さんの言うハイブリッドには時間が含まれているのかなと思います。


伊達:


ジャーニーの中で、最初にリアルを持ってくるのか、最後にリアルを持ってくるのかというだけでも、エクスペリエンスとしては全く異なりますよね。だからこそ、企業側が、そうしたことに関する“意図”を持って採用を設計するのが重要だと思います。


服部:


経済学にデファクト・スタンダードという言葉があります。本当にそれがいいかどうかは分からないが、みんながやっているから事実上標準になったというものです。


採用にもデファクト・スタンダードはたくさんあります。なぜ面接するのか、なぜ面接は東京の本社に行かなきゃいけないのか。今までの採用では、誰もこうしたことを疑わず、スタンダードとして受け入れてしまっていました。しかし、現在のような状況になると、採用をめぐる事柄に「なぜか」という疑いのまなざしが出てきます。


今までは、会社側に何の意図もなかったとしても、求職者が会社のことを信頼してくれていたかもしれません。しかし、この1年で「(企業側の)意図がなければ(求職者側の)納得感が得られない」といった事情が現れました。企業の意図に納得できて、信頼できるから身を預けよう、となるわけです。


伊達:


意図がなければ、求職者に対する説明が難しくなります。例えば、「最終面接をなぜ対面にするのか」を説明するときに、その背後に意図が求められるということです。このような説明の重要性はHRテクノロジーの世界でも指摘されています。


HRテクノロジーの開発において、計算プロセスのブラックボックス化を避けようとする企業があります。ブラックボックス化すると、説明できなくなるからです。「なぜこの結果が出たか」を説明できなければ、責任を果たせず、人を動かしにくいんですね。



今後の採用の展望


伊達:


残された時間がわずかになりました。今後の採用はどうなっていくと思うか、お互いに一言ずつ述べて締めましょう。


服部:


私からは3点お伝えます。1つ目ですが、今までの採用は、会社と長いお付き合いをすることが前提でスタートしていました。しかし現在の求職者を見ると、数年先にどのような状態になるのかを示す必要が出てきています。オンライン化したときに、このためのコミュニケーションが担保できているかを考えなければならないと思います。


2つ目は、先ほど挙げた納得感の件です。今年度の採用はあまり納得感が得られていないかもしれません。今までは、対面で多数の情報を得ているから、納得してしまうところがありました。人は、目の前にいると感覚的に納得したり、あるいは、東京へと2時間半往復したこと自体に納得を高めたりするところもあります。


採用のオンライン化によって、これらのものが失われた可能性があります。それでも、最低限の情報のやりとりはできているはずです。やりようによっては、今までとは違う形で納得感を高められるかもしれません。この辺りは、まだまだ世界的に議論できていないところです。『オンライン採用』を契機に議論していきたいところです。


3つ目ですが、対面の良さの中で、オンラインで消えてしまったところはどこなのか、消えたように見えるけど実は残っているもの、やろうと思ったらうまくやれるものはどこなのか。そこから、本当に要らないものと、残すべきものを切り分けていくことが、これからの採用のポイントだと思います。


伊達:


今回のコロナ禍のような大きな変化が生じると、「昔はよかった」あるいは「新しいものこそ良い」などと、二極化が起こりやすくなります。その中で、対面への完全回帰やテクノロジーへの過剰な傾倒のように、片方の極に振り切らずに、2つの極のせめぎ合いに踏みとどまることがハイブリッドです。


せめぎ合いの中でも考えることを放棄しないでいれば、新しい方法を思いついたり、自社に合った方法を組み込んだりすることができるようになるはずです。


これらの考えをもとに、今後の採用について粗い予測を立てるとすれば、初めのうちは、「昔はよかった」あるいは「新しいものこそ良い」という意見が入り乱れると思います。ただ、徐々に、両者のせめぎ合いと向き合った良質な事例が出てくるのではないでしょうか。楽しみですね。


では、本日は以上で終了します。ありがとうございました。


参考文献

服部泰宏(2016)『採用学』新潮社

釘崎清秀・伊達洋駆(2019)『「最高の人材」が入社する採用の絶対ルール』ナツメ社

伊達洋駆(2021)『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』

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