人事を科学的に進めるポイント:人事データだけでは不十分な理由

2020-9-08

HRテクノロジーの導入が進んでいます。それに伴って勤怠、人事考課、アセスメントや組織サーベイの結果など、様々な「人事データ」が社内で蓄積されています。

 

人事データのような「エビデンス」を上手く活用し、より良質な人事施策を実行していけないか。そうした問題意識のもと、「科学的人事」に対する関心が高まっています。筆者はビジネスリサーチラボの代表として、多くの企業人事をクライアントに人事データの分析を手掛けてきました。

 

本コラムでは、それらの経験に加えて、エビデンスを巡る学術研究を参照し、科学的な人事を進めるためのポイントについて解説します。

 

 

 

エビデンスに基づくアプローチは人事以外から生まれた

 

ご存知の方もいるかもしれませんが、科学的人事のように、エビデンス基づくアプローチは人事領域に端を発しているわけではありません。エビデンスに基づくアプローチを初めに本格的に取り入れたのは「医療」であり、「Evidence-Based Medicine」と呼ばれます。

 

Evidence-Based Medicineは、英国で医学の研究を系統的に整理した成果をデータベース化し、臨床医に紹介したことから始まります(※1)。臨床に必要な研究知見を探すことのできるシステムが提供されたわけです。

 

そのシステムが臨床医や政策立案者の間でよく利用されるようになり、Evidence-Based Medicineは大きく普及するに至りました。

 

 

エビデンスに基づくアプローチはマネジメントにも応用

 

Evidence-Based Medicineの考え方は、研究者と実務家を魅了するものでした。時を置かず、社会科学においてもその応用が進みました。

 

例えば、政策立案をエビデンスに基づいて行おうとするEvidence-Based Policy Making。そして、エビデンスを元にマネジメントを実践しようとするEvidence-Based Managementなどが産声をあげました。本コラムは科学的人事に関心があるため、後者のEvidence-Based Managementに注目したいと思います。

 

Evidence-Based Managementとは何でしょうか。それは、このように定義されています。

 

①現場状況の情報、②実務家の専門知、③学術研究の成果、④利害関係者の視点という情報源を、慎重かつ賢明に利用し、意思決定を行うこと(※2)。

 

 

人事データ以外の情報源もエビデンスになる

 

Evidence-Based Managementの考え方は興味深いところです。何故なら、意思決定に際して参照すると良い情報源として、4つも示されているからです。

 

HRテクノロジーによって収集された人事データは、Evidence-Based Managementにおける情報源の中で言うと、①現場状況の情報に該当するでしょう。人事データは従業員のその時々の状況を示す情報です。

 

Evidence-Based Managementの考え方に従えば、科学的人事を進める際に必要なのは、人事データに限られないのです。②実務家の専門知、③学術研究の成果、④利害関係者の視点もあわせて利用することで、意思決定の精度が高められます。

 

 

人事データだけでは不十分な理由を示す分析事例

 

人事データだけでは不十分な理由を示す例があります。弊社が、とあるメーカーをクライアントに人事データの分析を行ったときのことです。

 

弊社が人事データを分析したところ、入社前の適性検査で外向性(社交的で話し好きな性格)の「低い」従業員の方が、現在のエンゲージメント(仕事に熱意を持つこと)が高い、という結果が得られました。

 

この結果を根拠に、「外向性の高い人は不合格にする」という施策に落とし込むのは妥当でしょうか。クライアントと話し合った結果、結果を拙速に受け入れるのはやめておこうという話になりました。

 

理由は三つあります。

  1.  熱意のある従業員を具体的にイメージすると、外向性が低いとは思えないというクライアント側の意見があった。

  2.  エンゲージメントには性格よりも、仕事の性質や周囲との関係性などが強く影響することが学術研究で検証されている。

  3.  外向性の高い人を不合格にする方針は、恐らく経営層が受け入れないと考えられる。

 

これらの理由はそれぞれ、②実務家の専門知、③学術研究の成果、④利害関係者の視点に対応しています。①現場状況の情報と、②③④の情報が乖離しているため、①に基づいて対策を講じるのはリスキー、と判断したわけです。

 

以上、本コラムでは、HRテクノロジーを通じて蓄積される人事データを活用する「科学的人事」を進めるために、人事データは勿論有効ではあるものの、それ以外の情報も一緒に検討する方が良いことを示しました。科学的人事を実践する際の参考になれば幸いです。

 

 

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※1:Evidence-Based Medicineに関する記述は、次の論文を参考にしています。

Marston, G. and Watts, R. (2003) Tampering with the evidence: A critical appraisal of evidence-based policy-making, The Drawing Board: an Australian Review of Public Affairs, vol.3(3), 143-163.

※2:Briner, R. B., Denyer, D., and Rousseau, D. M. (2009). Evidence-based management: concept cleanup time?. Academy of Management Perspectives, 23(4), 19-32.

 

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