バーチャルチームを率いるリーダーに求められるもの 〜e-leadership研究の見地から〜

2020-4-14

はじめに

 

コンサルティングフェローの神谷です。

 

新型コロナウィルスの感染が拡大し、多くの方がリモートワークでの業務従事を余儀なくされている現状かと思います。

今回のコラムでは、この業務環境の劇的な変化を踏まえ、バーチャルチームのリーダーに求められる要素に焦点を当てます。

 

“バーチャルチームが機能するために、リーダーには何が求められるのか?”

 

バーチャルチームを率いるリーダーに求められるe-leadershipという概念に注目し、特に重要であると考えられるポイントについて紹介していきたいと思います。

 

 

e-leadershipとは

 

最初に今回のコラムで扱うe-leadershipという概念について説明します。

e-leadershipの代表的な定義を見てみましょう。

 

“個人、グループ、組織の態度、感情、思考、行動、パフォーマンスの変化を生むために高度情報技術によって媒介された社会的影響力のプロセス(Avolio, Kahai and Dodge, 2000)”

 

上記のように、e-leadershipとは、

 

①従来リーダーシップ同様に対象となるメンバーやチーム、組織に対してパフォーマンスアップを促すものであり、

②ICTの技術を媒介して効力を発揮していくというスタンスが重視されている点に特徴がある概念です。

 

物理的に接触が制限されている環境で、ICTツールを駆使してチームのパフォーマンスを促していく際に求められるリーダーシップ、それがe-leadershipです。

 

 

バーチャルチームが抱える課題とセルフマネジメントへの注目

 

e-leadershipが向き合うのは、バーチャルチームです。つまり、その形態的特徴である「直接接触がない」「メンバー同士が離れている」ことから生じるあらゆるチーム課題です。

 

例えば、どのようなものがあるでしょうか。Avolio and Kahai (2003) は、バーチャルチームの抱える課題として以下を提示しています。

 

(a) コミュニケーションの遅滞

:対面と比較して、コミュニケーションのタイミングやスピードが低下する。

 

(b) レスポンスの不足から生じる誤解

:レスがないことで相手に対する印象・評価が変わってしまう。

 

(c) メッセージを解釈するための前提の欠如

:相手の意見が立脚する前提が共有されずに、内容を適切に解釈できなくなる。

 

(d) チームメンバーを常にモニタリングできない

:メンバーの業務への取り組み状況や取り組み姿勢などが分かりにくい

 

このような課題に対して、リーダーはどのように向き合うのが最善でしょうか。

 

実際にバーチャルチームの振る舞いを参与観察していると、「高頻度で定期的に連絡をとる」「即レスを強いる」「業務時間や進捗を全て数値化して徹底管理する」といった直接的な振る舞いが散見されます。

 

このような「監視・管理のエネルギーを増やす」というアプローチは、短期的にはチームのパフォーマンスを高めるかもしれませんが、持続性や意欲的側面を考慮すると生産性が高いアプローチとは言い難いのかもしれません。

 

何より、私たちがこれまでの日常で意識していたエンゲージメントやモチベーションといった意欲概念に逆行しており、メンバーをシステム化してしまっているような気もします。

 

どのようにメンバーをマネジメントするべきでしょうか。e-leadership研究ではメンバーのセルフマネジメントを促すアプローチをとっています(例えば、Kerfoot,2010)。

監視や管理をせずとも、メンバーが自らの役割と責任を認識し、自己管理するように促す(develop self-management )わけです。

 

セルフマネジメントをいかに開発するか、それがe-leaderたちに課せられた命題であると言えるかもしれません。

 

 

e-leadershipに求められる要素(1)個別事情を深く理解する

 

このような状況をつくるために、バーチャルチームのリーダーが意識的になるべき要素はどのようなものでしょうか。

特に重要だと考えられるポイントについて3つ挙げたいと思います。

 

まず、最初の要点は「個別事情を深く理解する」です。

 

ダイバーシティの意識が浸透している欧米でも、e-leaderにはメンバーの個別事情について深く精緻に学ぶことを求めています(Malhotra, Majchrzak and Rosen, 2007など)。

 

どうしてメンバーを深く理解することが求められるのか?

 

それは、バーチャルチームの特徴である距離に起因します。メンバー間の社会的距離は離れるほどに、相互理解の質は低下していきます。互いの価値観や視座を共有するコストが大きくなっていくのです。

 

例えば、同じ地域に住む同世代の同じ家族構成のメンバー間であれば、互いの働き方やコミュニケーションのスタイルについて共通の理解を得るまでにさほど時間はかからないかもしれません。

 

他方で、世界各地に多様なメンバーが点在している場合は、世代や家族構成の違いだけでなく、宗教や習慣の違い、また時差や言語の違いによるコミュニケーションの制約まで浮上します。

 

同じオフィス空間で働いている場合は、ここまで個人を深く理解する必要はなかったのかもしれません。

 

会社生活という独自のライフスタイルが確立されており、個人がそれに適応して働くものであるというルールが暗黙的に機能していました。私たちはその前提に頼って、個人のライフスタイルや価値観に踏み込む意識は薄かったのかもしれません。

 

離れている人々をまとめる、そのためには改めてそれぞれのメンバーのワーク&ライフスタイルに関心を持ち、彼らの「リズム」を聞くことが求められています。

 

 

e-leadershipに求められる要素(2)行く先を描く

 

バーチャルチームを機能させるための2つ目のポイントは「行く先を描く」です。

つまり、自分たちが向かう方向や重視するスタンスを丁寧に示すということです。

 

Kissler (2001) は、優秀なe-leaderに求められる素養として「未来予想図」を描くことや、自らの価値や志向を踏まえたリーダーシップを発揮することを挙げています。他にも多くの研究者がビジョンを明示する必要性や、先見的な思考で将来像を描いていくことの重要性を提示しています(Annunzio, 2002など)。

 

リーダーならば、ビジョンを示すのは当然でしょう。しかし、バーチャルチームにおいて、リーダーがビジョンを示す意味は一層大きいものだと言えます。

 

人は、集団から離れるにしたがって「迷い」やすくなるためです。

自分が属しているコミュニティとの接触が少なくなるほどに、そのコミュニティ内の役割認識が低下していきます。

メンバーとの距離が離れるほど、メンバーは自らの役割や責任に対する意識が希薄化していき、メンバーとして何をすべきか?が見えにくくなっていくわけです。

 

そのため、リーダーはチームの行く先を明確に示し、個々の役割を再定義していくことが求められます。

 

例えば、現在の日本の状況を踏まえるならば

 

・現状はどのような状況と認識したら良いのか?

・これから私たちはどこへ向かうのか?

・そこには何が待っているだろうか?

・今やるべきこと、できることは何か?

・この状態で「仕事」をどのように再定義すべきだろうか?

・それを踏まえ、私たちは明日から何を積み上げていくべきなのか?

・この社会にどのように貢献していくのか?

 

組織や自らの価値基準を踏まえながら、

真摯に語りを続けていくことが求められます。

 

社会的に不安定な状況で、従来の「物差し」が利用できないときこそ、リーダーは自らの信念に対して意識的になり、恐れずに行動をしていくことが求められているのでしょう。

 

 

e-leadershipに求められる要素(3)信頼関係を再構築する

 

最後は「信頼関係を再構築する」です。

バーチャルチームにおいてメンバーが能力を充分に発揮できる環境をつくるためには、信頼(trust)関係が構築されていることが必要です。

 

信頼関係があることで、メンバーの満足度調整行動パフォーマンスが向上するという研究結果は複数報告されています(例えば、Chad, Craig and Ying, 2001; Lukić & Vračar, 2018)。また、信頼関係は知識の共有コラボレーションに資するという報告もあります(例えば、Jimenez et al., 2017)。

 

バーチャルチームにおける信頼関係とは、チームが直面する課題を乗り越えるうえで不可決なものと言えます。

 

では、信頼関係がある状態とはどのような関係性なのでしょうか。

山岸(1998)は、信頼について次のように説明しています。

 

“信頼:社会的不確実性の存在する環境において、相手を信じること”

 

つまり、リスクのある状況下で、相手の言動や意図を受け入れる選択ができる状態が信頼関係のある状態です。

 

反対に、リスクの少ない日々の生活のなかで、相手の言動や意図を容易に信じることは、「安心」にすぎないとしています。

 

例えば、メンバーに対して無意識のうちに次のような感覚を抱いていたとします。

 

・オフィスに出社しているから ⇒ メンバーはきっと仕事をしてくれている

・上司・部下関係があるから ⇒ メンバーは従ってくれる

・これまでやってくれていたから ⇒ メンバーは今日もやってくれる

 

このような前提認識に基づいた「任せられる」という感覚は「信頼」ではなく「安心」と呼ぶべきものかもしれません。

 

このような社会的リスクの低い時期に醸成された「安心」を前提に、バーチャルチームが営まれているならば、チーム内の「信頼」の現在値について改めて確認する姿勢が必要かもしれません。

 

 

まとめ

 

簡単にまとめていきます。今回はe-leadershipという概念に注目してきました。

 

離れ離れになっているチームが機能するうえで必要なポイントとして、

 

①個別事情を深く理解する、

②行く先を描く、

③信頼関係を再構築する、

の3つを提示してきました。

 

バーチャルチームを率いるうえで重要なことは、分散したメンバーたちを「チーム」として成立させるということなのかもしれません。

 

具体的には、それぞれ個人的な文脈に位置づいているメンバーたちに対して、人間関係や個々の役割などのチームの社会インフラを整備し、ベクトルを示すことで、推進エネルギーを高めていくことです。この基本的な状態を適切につくりあげることが、チームのパフォーマンスに資するのでしょう。

 

「バーチャル」という響きを聞くと、私たちはどうしてもオンラインシステムの機能や、遠隔管理のTipsに目を奪われがちです。

まずは、「離れても互いが強い関係性で繋がっている」そういうチームを再構成していくことに尽力していくことが大切なのかもしれません。

 

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