(1)実は幾つか存在する「エンゲージメント」の種類:働く人のエンゲージメント ビジネスリサーチラボセミナー報告

2018年5月23日、「働く人の『エンゲージメント』:理論と実践から読み解くセミナー」と題したセミナーを株式会社ビジネスリサーチラボ主催で開催しました。

昨今、従業員の「エンゲージメント」に対する注目が集まっています。エンゲージメントを測定するサーベイ。エンゲージメントを高めるための教育プログラム。そのようなサービスも市場に次々とリリースされています。

 

同時に、社内でエンゲージメントを高める取り組みを始める企業も増えてきています。規模の大小問わず、様々な組織がエンゲージメントをキーワードに、組織改革を推進しています。

 

世界各国でエンゲージメントに関する研究も蓄積されてきています。エンゲージメントにはどんな種類があるのか。何があればエンゲージメントが高まるのか。エンゲージメントが高まればどんな良いことがあるのか。多様な観点から研究が行われています。

 

このような背景を受け、学術知・実践知に基づいたリサーチ&コンサルティングを提供する株式会社ビジネスリサーチラボは、働く人のエンゲージメントの理論と実践を紹介するセミナーを開催しました。

 

セミナーの内容に入る前に、まず弊社の立場を表明しておきたいと思います。弊社はエンゲージメント「推進派」でも「否定派」でもありません。両方の立場の知識を共有できればと考え、セミナーを企画しました。

 

そのため、本セミナーでは、まとまった分かりやすい主張を行うというよりは、様々な立場を紹介していきます。読み進める中で混乱が生じるかもしれませんが、混乱も含めて、市場の中でエンゲージメントを巡って起こっている実態を共有できればと思います。

 

本レポートが、エンゲージメントについて多面的に考えるための素材となれば幸いです。

 

エンゲージメントには2つの種類がある

  

エンゲージメントとひとことで言っても、2つの種類があります。ひとつは「ワークエンゲージメント」、もう一つは「従業員エンゲージメント」です。

 

詳細は以降のレポートで紹介していきますが、簡単にこの違いを整理しておくと、「ワークエンゲージメント」は主に「学術界」で使用されている用語で、学術的な作法に則って知識が蓄積されているものです。

 

一方、「従業員エンゲージメント」は、主に「産業界」で利用されています。こちらも国際的に広まってきつつある概念ですが、学術界の「ワークエンゲージメント」とはやや異なる動向が見られます。

 

セミナーは2部構成で、第1部は株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達洋駆が担当し、「ワークエンゲージメント」について解説します。学術界では、ワークエンゲージメントを巡ってどのような研究や実践が行われているのか。その効果や要因とは何か。それらの研究が実践にどのようなインパクトをもたらしているのかを説明します。

 

第2部は同じく株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルタントの神谷俊が担当し、「従業員エンゲージメント」を取り上げます。産業界で従業員エンゲージメントがどのように受容され、広まってきているのか。この概念にどのような期待が込められているのか。そしてどのような批判があるのかを紹介していきます。

 

伊達洋駆・神谷俊のプロフィール

 

 

第1部 ワークエンゲージメントの現状

 

株式会社ビジネスリサーチラボ

代表取締役 伊達洋駆

 

ワークエンゲージメントの定義

 

ワークエンゲージメントとは、一言で言うと「仕事への活力に満ち、打ち込んでいること」です。「いきいきと働いていること」と言い換えることもできるかもしれません。

ワークエンゲージメントには3つの構成要素があります。「熱意(仕事に誇りややりがいを感じていること)」、「没頭(仕事に熱心に取り組んでいること)」、「活力(仕事から活力を得ていること)」です。

 

 

ワークエンゲージメントは、「ワーカホリズム」と対比されて語られます。ワークエンゲージメントは「仕事が好き」「仕事をしたい」という動機に基づいている。しかし、ワーカホリズムは「内心は嫌だが、働かなければならない」という動機に基づいている、という違いがあります。

 

ワークエンゲージメントと似ている概念もあります。学術界では、新しい概念が出てくると、他の概念との違いを示すことが重要になりますが、「ワークエンゲージメントと似ているが異なる概念」として、バーンアウト、職場満足度、ワーカホリズムがあげられます。

 

 

ワークエンゲージメントとこの3つの概念を整理している研究を紹介しましょう。横軸が仕事に対しての認知。仕事に対してどういう思いなのかという軸です。対して、縦軸は活動水準。高い水準で活動しているか、それとも低い水準かという軸です。

 

ワークエンゲージメントは仕事への認知が「快」、かつ活動水準も「高い」。職務満足感は、仕事への認知は「快」だが、活動水準は「低い」。満足してゆったりしている状態と言えます。ワーカホリズムは活動水準が「高い」が、仕事に対する認知は「不快」。

 

ワークエンゲージメントと対局的なのはバーンアウトです。ワークエンゲージメントは、そもそもバーンアウトの対概念として出てきたという歴史もある。バーンアウトにおいては活動水準が「低く」、仕事への認知も「不快」です。

 

この段階で、私の方で解説する「ワークエンゲージメント」と後ほど神谷が解説する「従業員エンゲージメント」の違いを説明できます。ワークエンゲージメントは、「その概念を厳密に定義すること」や「他の概念と区別できること」に力を注いでいる。一方、あとで話がありますが、従業員エンゲージメントは実に多様な側面を含む概念です。

 

ワークエンゲージメントの学術的な教科書がありますが、その中で、「従業員エンゲージメント」は「コンサルタント会社が標榜したもので、職務満足度と区別できていない」。更には「組織コミットメント(組織への愛着)や役割外行動(役割に書かれていない行動)も含まれている」と述べられている。

 

 

対して、同じ教科書において、「ワークエンゲージメントはしっかりとした定義がされていて、測定もできる。組織コミットメントとも区別できる」と主張されている。私も神谷も、特にワークエンゲージメント派でも従業員エンゲージメント派でもないですが、ワークエンゲージメント派から見た従業員エンゲージメントの像が透けて見えます。

 

 

 

状態ワークエンゲージメントと特性ワークエンゲージメント

 

エンゲージメントと言っても、ワークエンゲージメント従業員エンゲージメントがあるという話をしました。更に、ワークエンゲージメントも2つに分けられる。状態ワークエンゲージメント特性ワークエンゲージメントです。

 

①一時的な状態を表す「状態ワークエンゲージメント」

 

状態ワークエンゲージメントとは、一時的な状態を指します。つまり、「今日はいきいきと働いている」、あるいは「今週はいきいきと働いている」といった、短いスパンでのエンゲージメントを意味します。対して、特性ワークエンゲージメントというのは、ある程度安定したエンゲージメントを特性ワークエンゲージメントと呼びます。

 

 

状態ワークエンゲージメントと特性ワークエンゲージメント。いずれの方が研究は多いと思いますか。特性ワークエンゲージメントの方が研究は多い。特性ワークエンゲージメントが何に影響を与えるのか。何があれば特性ワークエンゲージメントが上がるのか。そうした研究が積み上げられてきています。

 

逆に、状態ワークエンゲージメントは、概念自体が新しいこと、測定の負荷が大きいこと、分析の難易度が高いこと、といった理由であまり蓄積がない。とはいえ、研究が存在しないわけではありません。

 

状態ワークエンゲージメントに関しては、例えば、こんな研究があります。

  • 「業務時間外にリフレッシュできた」と認識していると、その日の状態ワークエンゲージメントは高い。

  • 仕事前に「自分はうまく仕事を進められそうだ」と感じていると、その日の状態ワークエンゲージメントは高い。

先ほど言った通り、状態ワークエンゲージメントは研究数はそこまで多くありません。他方で、「一時的な状態を測定する」という考え方自体は、実践的には流行し始めている。皆さん、パルスサーベイという言葉は聞いたことがありますか。ざっと2割程度の方が手を挙げたでしょうか。

 

パルスとは「脈拍」を意味しますが、脈拍をとるように「短い」間隔で何度も測定を行うサーベイのことをパルスサーベイと呼びます。パルスサーベイのサービスが様々な企業から販売されてきていて、人事界隈で浸透し始めています。

 

例えば、従業員満足度調査。いわゆるES調査です。これまでは1年に1回のケースが多かった。一方、パルスサーベイにおいては同じES調査でも、1週間に1回、もしくは1ヶ月に1回等の頻度で従業員に質問が送られてきて、それに回答します。

 

話をエンゲージメントと接合しましょう。パルスサーベイという方法で状態ワークエンゲージメントを捉えれば、「ある時点でその人がいきいきと働いているか」というデータを積み重ねていける。すると、この数週間で状態ワークエンゲージメントが下降してきている、といったことが分かります。このように値の変動を捉えられるのがパルスサーベイの魅力です。

 

“数値”と“介入”の間を橋渡しする必要がある

 

ところが、パルスサーベイは結果が扱いにくい側面もあります。ある組織開発プロジェクトにおいて管理職にインタビューしたところ、複数の管理職からパルスサーベイの話があがりました。要約すると、こんな話でした。

 

「エンゲージメントの大きく下がった部下がいた。その部下に注意するよう促された。確かにエンゲージメントの値は落ちているが、どうすればいいのか正直わからない。面談を設定して「最近どう?」と聞けば良いのか。藪蛇にならないか心配だ。」

 

この管理職の嘆きは何を意味しているのか。ここに状態ワークエンゲージメントを測定するパルスサーベイに関する一つの重要な含意を見いだせます。「数値」と「介入」の間に距離があると活用しにくいという含意です。

 

サーベイの結果、「状態ワークエンゲージメントが落ちている」と言われても(数値)、どんなアクションをとれば良いのか(介入)は即座に思いつかない。数値と介入の間を如何に近付けるのかという点は、状態ワークエンゲージメントを測定する上でポイントになります。

 

(2)「測定できること」がもたらす光と影:働く人のエンゲージメント ビジネスリサーチラボセミナー報告 へ続く)

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