データ分析に基づく新卒採用プロセスの総点検・改善 IT企業B社の事例紹介

2018-2-08

 

本稿では、株式会社ビジネスリサーチラボが実施したコンサルティング事例を紹介し、その中で気づいた点をアフタートークの形で記述します。今回の事例は、IT企業B社の新卒採用に関するコンサルティングです。本コンサルティングを主に担当したのは、弊社代表取締役の伊達洋駆です。

1.プロジェクト概要

 (※一部改変しています)

 

IT企業B社の新卒採用チームから、「採用プロセスの総点検を実施し、各施策の改善を図りたい」という相談を受けました。B社の担当者と話し合った末、弊社は、学生を対象にインタビュー調査・アンケート調査を行い、学生の目にB社の採用プロセスがどのように映っているかを明らかにしました。

 

具体的には、B社の内々定を承諾/辞退した学生に対して、特に「動機形成」の側面に注目し、定性・定量の両面から調査しました。ここにおける動機形成とは、「学生がB社を選ぼうとする/しない心理的プロセス」を意味しています。

インタビュー調査・アンケート調査で得られたデータを分析した結果、B社の採用プロセスに関する長所と課題が浮かび上がってきました。それらを弊社からB社に示した上で、弊社とB社の間で議論を交わし、採用プロセスの施策ごとに一つずつ対策を練りました。

 

最終的に、B社に対するコンサルティングを通じて、約100個の改善案をエビデンスに基づいて導き出すことができました。それらのうち、1点だけここで紹介しておきたいと思います。

<グループディスカッションを巡る改善>

  • 背景:学生から多くのエントリーを集めることができていたB社は、一方でそれ故に、選考のためのリソースが不足している状況だった。そのため、採用の効率化を狙って、グループディスカッションを実施していた。結果、効率化という目標は達成できていた。

  •  課題:しかし、選考される学生にとって、グループディスカッションは「見極められる」機会にしかなっていなかった。他方で、動機形成に対しては何の貢献もできていなかった。B社がグループディスカッションを行う間にも、他社は動機形成を進めており、B社は不利な立場にあった。

  • 対策:そこで、グループディスカッションのテーマを2つの観点から変更することにした。まず、B社の事業・仕事に関する理解がより深まるようなテーマにした。次に、(学生を評価する)社員とのコミュニケーションが自然に発生するようなテーマにした。これらの変更によって、B社を受ける学生の動機形成に対する効果を引き上げようと狙った。

 

 

2.アフタートーク

 

今回のコンサルティングを担当した、弊社代表の伊達洋駆が、以下、コンサルティングプロセスにおいて感じたことをアフタートークの形で紹介します。

 

B社に限らず、新卒採用においては、「今年の採用が完全に終わる前に、来年の採用を始めなければならない」企業が少なくありません。そうした事情も影響してか、採用担当者・責任者の中には、自社の採用プロセスを深いレベルで振り返るために、十分な時間を確保できない人もいます。

振り返りがしっかりできないと採用活動を改善しにくいものです。慌ただしさに放り込まれて、採用の品質を上げることができないまま、毎年苦境にあえいで、気づけば翌年の採用が始まっている。そのような悪循環にはまっている企業もあります。

こうした社会一般的な状況の中で、B社は弊社のコンサルティングを受けながら、現在の採用プロセスが適切に機能しているのか、データに基づいて総点検を行いました。採用プロセスの総点検は、採用を継続的に成功させるために本質的に重要なアクションです。

下記では、実際にB社のコンサルティングを進める中で得られた、採用活動にまつわる知見のうち、とりわけ興味深かったものを2点挙げておきたいと思います。

 

①同じ言葉でも異なる理解をもたらす可能性

  • 学生を対象にインタビュー調査・アンケート調査を行うことで、学生の中に、「学生と社会人の関係性」を巡って2種類の価値観が存在していることが分かってきた。

  • 一つは「学生と社会人は別物」と考える学生である。この見方は、学生と社会人の間に壁を置いているため、「断絶タイプ」と仮に呼んでおきたい。もう一つは「学生と社会人は地続き」と考える学生である。この価値観を持つ学生を「架橋タイプ」と呼んでおく。

  • 「断絶タイプ」「架橋タイプ」という分類が興味深いのは、たとえB社が同じメッセージを学生に発信しても、各タイプで異なる解釈がなされるからである。

  • 例えば、B社では教育体系が整備されていた。そのことを学生に伝えるために、B社は「うちは教育がしっかりしている。入社してから学んでも大丈夫です」と話していた。

  • 「断絶タイプ」は、このメッセージを肯定的に受け止めていた。学生とは別物である社会人になった後で、手厚いフォローがあるのは安心、というわけだ。

  • だが、「架橋タイプ」の反応は違った。彼らはむしろ不満を感じていた。架橋タイプにとって「入社してからでも大丈夫」というメッセージは、入社前の自分自身を否定する意味合いがあったからだ。「B社は欲しい人材などなく、誰でもいいのか」と受け止めていた。

  • このように、学生の価値観によっては、同じメッセージが異なる形で解釈され得る。自社を受けに来る学生が暗黙のうちに持つ価値観を正しく把握することが求められる。

 

②マッチングの説明は企業側が行うべき

  • 学生への調査において、内々定を承諾・辞退した学生たちは共通して、入社後の職業生活を明瞭に描けず、不安を残したまま就職活動を終えようとしていた。

  • 不十分な将来イメージしか持てない中で、しかし、(主観的に)自分とマッチングしている会社を、限られた期間の中で選び取らなければならない。学生にとって、今の一般的な就職活動は非常に過酷である。

  • この過酷さを少しでも緩和し、入社後のミスマッチを減らすためにどうすれば良いか。ある学生の話がヒントになる。彼は「自分が入社したらどのように活躍できるのか、具体的な仕事内容・職場環境にもとに会社側から説明を受けた」という。そうした話は彼が入社後イメージを深めることを助けた。

  •  企業と学生を比べると、大きな情報格差がある。入社後の仕事や職場のことを知っているのは、学生側ではなく企業側である。

  • だとすれば、目の前の学生と社内の状況を照らし合わせて、「その学生が如何なる意味・側面で自社とマッチしている/いないのか」を見極める必要がある。それだけではない。学生自身にそのことを丁寧に説明することが求められる。

  • すなわち、マッチングとは学生側の主体的な情報収集と主観的な判断だけに任せるものではない。企業側が努力して学生に説明すべきものである。

 

以上の通り、弊社はB社をクライアントに、学生対象のインタビュー調査・アンケート調査を実施し、そこで得たデータをもとに採用プロセスの総点検をしました。この種の総点検を定期的に実施することによって、採用の精度・品質を向上させ続けることができるでしょう。

加えて、エビデンスに基づいた総点検の結果導き出された改善案のリストは、何年も何年も蓄積させていくと効果的です。リストを参照しながら蓄積していくことで、自社独自の採用上の強みを作り出すことにも繋がり得ます。

 

 

(了)

 

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