求職者の行動原理とは:不確実性低減理論からの説明

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、採用活動は変更を余儀なくされました。採用戦略の見直しを迫られている企業は少なくありません。

感染の収束はいまだ実現できておらず、流動的な状況が続いています。そのような中だからこそ、今一度、原理原則に立ち返り、自社の採用を点検していただきたい。そのような問題意識のもと書いているのが本コラムです。

本コラムで扱うのは、求職者の行動の背後にある原理です。今回は特に「不確実性低減理論」を取り上げ、説明を行います。



求職者が直面する3種類の不確実性


不確実性低減理論(Uncertainty Reduction Theory)とは何でしょうか(※1)。この理論の元々の関心は、見知らぬ人同士がコミュニケーションをとるプロセスを説明することにありました(※2)。

私たちは知らない人と話をする際、①その相手がどのような行動をとるか、②自分が相手の行動にどのような行動を返すか、③相手と自分はどのような関係性にあるか、などがよく分かりません。

このように情報が足りず、予測や説明が絞り込めないことを「不確実性」と呼びます。不確実性の中には、①「他者」に関する不確実性、②「自己」に関する不確実性、③「関係性」に関する不確実性という3つが含まれています。

求職者の行動で、それぞれの不確実性を考えてみましょう。①他者の不確実性は、その会社や職場などについてよく分かっていない状態②自己の不確実性は、自分の働く上での志向性などがよく分かっていない状態③関係性の不確実性は、その会社が自分に合うのかがよく分かっていない状態、と整理できるでしょう。



求職者のとる3つの不確実性低減の方法

不確実性に直面した私たちは、それを低減させようとします。少しでも他者や自己や関係性を予測したり説明したりするための材料、すなわち情報を集めます。これが不確実性低減理論と称される所以です。

具体的には、3つの方法で不確実性を低減しようとすることが分かっています。①受動的戦略、②能動的戦略、③対話的戦略の3つです。他者の不確実性に焦点を当て、各戦略の意味するところを紹介します。

まず、①受動的戦略とは、相手と直接話をするのではなく、その相手が他の誰かと話をする様子を見て、相手に関する情報を得る方法です。

例えば、求職者が人事同士、人事と現場社員、現場社員と役員のやりとりを注意深く観察するのは、受動的戦略をとることで不確実性を低減しようとしているからです。

続いて、②能動的戦略相手と直接話はしませんが、それ以外の方法で相手に関する情報を積極的に調べる方法です。

インターネットで採用サイトを読み込んだり、口コミを確認したりすることは能動的戦略の例として挙げられます。また、家族や友人に、その会社の評判を確認することも当てはまります。

最後に、③対話的戦略ですが、これはその名の通り、相手と話をすることによって情報を得る方法です。質問したり自身の情報を示したりすることで、相手から情報を引き出します。

例えば、OB・OGを訪問し、企業の実態や不安要素について尋ねるのは対話的戦略でしょう。面接官に面接の場で、あるいは採用担当者に説明会の場で質問することも含まれます。


コロナ禍で不確実性を下げる支援

不確実性低減理論とは要するに、人は知らないものに出会うと不確実性に直面するが、その不確実性を下げようと行動する、という理論です。

この理論の中でも特に、3つの不確実性を参考にして、コロナ禍における採用のあり方について考えてみましょう。

第1に、他者の不確実性です。採用がオンライン化されたことによって、企業や従業員の雰囲気や人柄が伝わりにくくなっています。

これは、「感情」が伝わりにくいというオンラインコミュニケーションの性質に由来するものです(※3)。当社が、ある企業を顧客に実施した内定者調査においても、昨年より今年の方が求職者の社風理解が進んでい「ない」様子が見て取れます。

他方で、オンラインコミュニケーションは事実を言葉で伝えることは得意です(※4)。感情は伝わりにくいが事実は伝わりやすいのであれば、できる限り事実を言語化する努力が欠かせません。

第2に、自己の不確実性です。当社が実施した別の内定者調査によれば、今年の求職者は内定を得た後も、「この会社に決めて良いか不安」になっていることが明らかになりました。

求職者自身の職業上のニーズが十分に深まっていないことが一因かもしれません。とすれば、企業がしなければならないのは求職者の「キャリア開発支援」になります。

求職者に自社をアピールするのも大事ですが、求職者が自己の不確実性を低減する助けを提供することで、求職者も入社の意思決定を円滑に下すことができるでしょう。

第3に、関係性の不確実性ですが、他者と自己の不確実性を下げることで、関係性の不確実性も同時に下がることが期待されます。

自己の不確実性を下げるためにキャリア開発支援する中で、求職者の働く上でのニーズを把握できるでしょう。ニーズが自社に合っていれば自社のことを説明しましょう。それは他者の不確実性を下げ、関係性の不確実性を下げることにもなります。

ただし、求職者のニーズが自社に合っていないこともあるでしょう。その場合、ニーズに合う他社を紹介してみてはどうでしょうか。各社がそうした助言を積み重ねれば、社会的な人材の最適配置につながっていきます。


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※1:以降は、不確実性低減理論について総合的な解説を提供する、Redmond, M. V. (2015). Uncertainty reduction theory. English technical reports and white papers. 3.を参考に記述しています。

※2:Berger, C. R., and Calabrese, R. J. (1975). Some explorations in initial interaction and beyond: Toward a developmental theory of interpersonal communication. Human Communication Research, 1(2), 99-112.

※3:深田博巳(1998)『インターパーソナルコミュニケーション:対人コミュニケーションの心理学』北大路書房。

※4:杉谷陽子(2008)「インターネット上の口コミの有効性:情報の解釈と記憶における非言語的手がかりの効果」『産業・組織心理学研究』第22巻1号、39-50頁。


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