アンケート配信前に工夫すべきポイント:「組織サーベイの活用」セミナーレポート①

ビジネスリサーチラボは、2020年10月に無料オンライン対談「組織サーベイの活用:組織サーベイをどう活かせば良いか」を開催しました。

組織サーベイの開発・活用支援を多数実施してきた伊達洋駆(ビジネスリサーチラボ代表取締役)・神谷俊(同コンサルティングフェロー)が、組織サーベイを活用する方法について対談しました。今後2回にわたって、当日の様子をレポートします。



登壇者

伊達 洋駆


神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。共著に『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)や『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(ナツメ社)など。




神谷 俊


法政大学大学院経営学研究科 修士課程修了。修士(経営学)。2016年9月に株式会社エスノグラファーを創業し、人事・組織領域やマーケティング領域において、エスノグラフィーを中心に据えた複眼的なリサーチ&コンサルティングサービスを展開している。2020年4月に新たにVirtual Workplace Lab.を発足。リモートワークに従事する従業員のリスク抽出や、バーチャルワークプレイスを展開する企業の組織課題抽出に特化したサービスを展開している。




サーベイ実施前にレディネスを高める

伊達:


従業員を対象にアンケートやインタビューを実施する。分析結果に基づいて、人や組織の課題を解決する。この一連のプロセスが組織サーベイです。


組織サーベイを実際に導入すると、様々な難しさが出てきます。導入したのはいいが、望んだ結果が得られなかった・対策につなげられなかった、等々です。そこで本日は、組織サーベイを多く実施してきた私と神谷さんの2人で、組織サーベイを生かす方法について議論します。


対談の問いはシンプルです。組織サーベイを活用して組織をより良い状態にするにはどうすればいいのか。


この問いを2つの段階に分解します。一つ目の段階はサーベイ実施前、つまりアンケートを配信する前です。実はアンケート配信前に工夫すべきポイントはたくさんあります。

神谷:


「実施前に必要なことは?」という問いですが、重要なことは全て実施前にあるのではないかと思います。


組織サーベイは、組織開発の推進のために行われるものですね。組織の効果性を上げていくことが最終の目的になる。そのために、現場の問題を見える形にして、組織にフィードバックするものじゃないですか。


要するに、組織が現場の問題を「学習」するために行われるものなんです。


ということは、組織がよりよく学習するための「下地」を、サーベイの実施前につくっておかなければならない。


この「下地」を教育心理学では、レディネスと言います。レディネスを構築するためにやるべきことは、非常に多いんだろうなと思ってます。


レディネスを軽視すると、組織サーベイを実施してみたものの、その結果が組織開発の俎上にのることなく風化してしまったり、やったままお蔵入りしてしまうリスクが高まります。


伊達:


組織サーベイあるあるですよね。


神谷:


はい。本来の目的を踏まえると、思わしくない状態に陥ってしまいやすいです。いくつか事例を出してイメージを共有しますね。


例えば近年流行している概念として、「従業員エンゲージメント」や「心理的安全性」などがあります。このような流行している概念を「とりあえず測定してみたい」という感じで、興味本位でいきなり実施してしまう企業さんは少なくない気がしています。レディネスが全く整備されない状態で走ってしまうケースです。


組織サーベイを実施して、良くない結果が出てきて、上長とか経営層にフィードバックしてみると「で、何なの?」と言われてしまう。そういう感じで風化していくケースも、結構あるんですね。


あるいは、とりあえずベンダーから提案されて実施してみたら、ものすごく悪い結果が出てきて、早く経営層にフィードバックしなければという状況になった企業もありました。しかし、経営層は現実を直視したくないという気持ちがあったようで、なかなか共有の機会をもらえない。組織開発を推進していこうという姿勢が組織内に整っていないんです。人事担当者も、経営層が明らかに不機嫌になるので、怖くて切り出せない。そんな気まずいお見合いが半年間ぐらい続き、いつの間にか風化してしまう。


このように、事前の情報共有や推進姿勢の共有がなければ、いずれ停滞してしまう。こういうケースは私個人の体験としても多かったですね。


反対に、事前にある程度経営層を巻き込んで、問題意識を共有できていると、すごくスムーズに進みます。


例えば、最近ではリモートワークに関する調査を行いました。設問設計の段階で副社長が同席し、副社長のリクエストや意向も踏まえつつ、仮説検証と今後の実践を踏まえたデータ抽出のため組織サーベイを実施しました。


結果を報告する際も、経営層は前のめりで質問をしてくれました。その後、間もなく「やはりサテライトオフィス必要だよね」と具体的な施策検討が進み、社内でスピーディに戦略が組み立てられ、展開されていったのです。


この準備状態をどうつくっていくかというのが、大前提として必要だと思います。



「ベターメント」の定義をすり合わせる


伊達:


レディネスに関連して、私からも一つキーワードを出します。「ベターメント」というものです。ベターメントは、調査をもとに改善を狙うアクションリサーチという研究方法の中で用いられる言葉です。


ベターメントとは端的には、「より良い方向」へ変化させていくことを指します。組織サーベイの目的は可視化自体ではありません。可視化された結果を参考に、ベターメントを志向することが本当の目的です。


ただ、厄介な点があります。ベターメントが大事だと同意していたとしても、ベターメントの定義が部門や人によって異なるという点です。例えば、人事担当者の考えるベターメント、経営者の考えるベターメント、現場マネジャーの考えるベターメントが一致していない場合。


ベターメントの定義がずれていると、深刻な事態が起こります。人事としては「仕事に没頭できる状態」をベターメントと定義し、組織サーベイを実施したが、経営者に報告しに行ったら、「別に仕事に没頭しなくても良い。そんなことより、会社に対して愛着を持ってもらう方が大事」と言われてしまった、といった具合です。


したがって、組織サーベイを通じて目指している改善の方向性=ベターメントについては、サーベイを実施する前に、入念に定義を調整する必要があります。ベターメントの合意もレディネスの一つではないでしょうか。

神谷:


組織をどういうふうに開発していくかという方向性がずれていると、改善や現状評価の軸自体がずれてしまうことになる。そのまま進めば、修復しようがない溝ができてしまいますよね。放置すれば組織内で「宗教論争」が起こってしまう。


従業員エンゲージメントを高めたい人事と、業績を高めたい経営層に溝が生まれるというケースは多いです。いつまでたっても共通言語ができなくて、組織サーベイの結果に基づいて、どのように意思決定したらいいか分からずに、風化してしまうケースは多くあります。


では、何が必要か。共通言語を、レディネスを構築する過程でつくり上げていくことが重要です。

特に重視すべき共通言語は「業績」でしょう。組織が良くなって、パフォーマンスを高めていくということは業績が上がっていくということなので、業績にどのように繋がるのかを位置付け、そこを共通言語として構築しておくことが重要です。


人事の仕事もビジネスです。流行している概念にとらわれるのではなく、自社の業績が向上するために尽力すべきです。自社のビジネスがどのように好転するのかという観点を踏まえて、経営層の問題意識の共有をしておかなければなりません。


今後、自分の会社がどのような付加価値をつくっていくべきか。その付加価値をつくり上げるためにはどこを刺激したほうがいいか。ここを人事の視点で考えつつ、経営層と共通言語をすり合わせていく。そういう姿勢ですね。

伊達:


そうですね。ベターメントの定義は思いつきで行うべきものではありません。人事として何を期待されているのかを経営層と議論しながら、定義を検討する必要があるでしょう。ベターメントの定義がずれやすい状況として頭に浮かぶのは、「エンゲージメントを高める」という目的のもとで組織サーベイを実施する場合です。


エンゲージメントについてはいろんなところで原稿を書いてきていますが、一貫して主張しているのは「エンゲージメントの定義をちゃんとしてくださいね」ということです。エンゲージメントは多くの人が知っている言葉ですが、人によって意味が異なる可能性がある言葉でもあります。多様性の高い言葉をベターメントとして設定した際、すれ違いや勘違いが起きやすい。


例えば、エンゲージメントサーベイの実施を人事が経営に提案し、経営がOKを出したとします。しかし、結果が出てきた時点で、両者のエンゲージメントの定義が不一致だったことに気づく。そうしたことが起きると、実務的にも深刻です。


ベターメントの定義については、サーベイ実施前に利害関係者にヒアリングをした上で、きちんと合意をとっておくことをおすすめします。



経営層との対話を促す口実になる

神谷:


経営層がどういうビジネスを考えていて、今、組織のどこに注目しているのかという視座や視点を、サーベイ前にある程度把握しておくことが重要です。


組織開発は、対話を基盤に進んでいくアプローチです。しかし、経営層との対話は、機会が選びにくかったり、関係構築をしにくかったりして、なかなかできていないと思うんですね。


でも、解像度の高い対話を一度挟んでおかないと、進める際に大きなズレが出てきます。一旦ズレが生まれてしまえば、修復するのにコストがかかります。人事部として予算や工数など資源を獲得したり、推進力を獲得する過程で、ボトルネックになりかねません。

伊達:


組織サーベイを実施するということが、経営層との対話を促す上で良い「口実」になるわけですね。なかなか普段は実施しにくいものですから。

神谷:


そうですね、「口実」って重要ですよね。「サーベイをやるのでヒアリングを…」という「口実」もありですし、事前に現場にヒアリングしてみて「こういう問題が起こっていると考えていて、この点を定量的に調査したいがどう思うか?」というアプローチでも良い。


人事の専門的見地から意味のある情報を提供しつつ、対話の機会をつくっていくという感じですかね。人事担当者として、そういうコミュニケーション戦略は必要になってくると思います。



対策可能性を意識して調整しておく

伊達:


他にもレディネスを高める上で重要な考え方を出したいと思います。それは「対策可能性」す。組織サーベイを担当する人事の方が、どのような対策であれば実行できるのか。この点を事前に明らかにしておくのが大事になります。


恥ずかしい昔話をしましょう。創業当初のビジネスリサーチラボの失敗談です。調査結果をフィードバックする機会があり、私たちは課題を列挙していきました。課題を挙げれば挙げるほど、フィードバックを受ける人事の方の顔色が暗くなったのです。


よくよく話を聞くと、対策が打ちようのない課題がたくさん出てきた、ということでした。パンドラの箱を開けただけで終わり、希望が残っていなかったわけです。このように課題への対策が打てないと、無力感を覚えてしまいます。

神谷:


そうですね。対策可能性とは、つまり「実現可能なものは何なのか」という観点です。それは、ビジネスの原則。大前提だと思うんですよね。


新入社員研修や若手研修でもやりますよね。ビジネスにおける行動の優先順位を考えるときに、「効果性×実現可能性」のマトリックスで考えましょうというものです。効果があって実現可能なものから優先的にやっていきましょうというような。この効果性と実現可能性にこだわれる組織サーベイなのかが大事です。


例えば、「あなたの会社の従業員満足度は全国偏差値でいうと、Sランク中のDランクです」という結果にはとても危機感が煽られます。「弊社は、問題のある企業なのだ」と。しかし「どうすれば効果的に問題は解消されるのか」について現実的な施策が見えてこないことも多い。


重要なのは、メカニズムが見えるということ。何故そのような問題が浮上しているのかという要因や因果をデータ分析によって提示できているかがポイントです。


組織サーベイの結果、次々と問題が出てくると、優先順位がつけられなくなります。ある程度、因果関係を見いだせるようなものをチョイスしていくべきだと思いますし、サーベイを実施する前に自社の問題を整理して、ある程度テーマを焦点化した上で実施するとよいでしょう。


伊達:


私が組織サーベイについてお話する際によく用いる概念として、「成果指標」「影響指標」があります。成果指標とはベターメントを反映した指標です。エンゲージメントが高い状態を目指すなら、成果指標はエンゲージメントになります。


ただし、成果指標の高低が分かったところで、どこに手を付ければ成果指標を高められるかは分かりません。そうなると、対策可能性は低くなります。そこで、影響指標と呼ばれるもう一つの指標を測定する必要があります。影響指標は「成果指標を促進/阻害する要因」に関する指標です。


先ほどの対策可能性の話と関連付けると、影響指標が低いときにとるべき対策を実施前にイメージできるか、という点を検討する必要があるでしょう。


(「組織サーベイの活用」セミナーレポート②に続く)


関連コラム①:組織サーベイ結果の「粘着性」を乗り越える(神谷俊)


関連コラム②:組織サーベイを上手く活用し、成果につなげるには(伊達洋駆)

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