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コラム

過去の行動が未来を語る:面接で実力を見抜く質問方法

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採用面接において、「あなたの強みは何ですか」などといった定番の質問だけで、本当に適切な人材を見極めることができるでしょうか。面接における質問方法によって、その後の職場での活躍度合いを予測する精度が変わります。「もしこんな状況になったらどうしますか」と仮想的な状況への対応を尋ねる方法と、「過去にこんな状況でどう対応しましたか」と実際の行動経験を尋ねる方法の違いは興味深いところです。

過去の行動を尋ねる質問は、人の「言葉」ではなく「行動」に焦点を当てます。何かを「やります」と言うのは簡単ですが、実際に「やった」ことは重みがあります。就職活動中の学生から経営幹部の選抜まで、あらゆる場面で面接が行われていますが、どのような質問が効果的なのでしょうか。

本コラムでは、過去の行動を尋ねる面接手法の有効性について、複数の研究結果をもとに解説します。仮想的な状況への対応を尋ねる方法と比較しながら、なぜ過去の行動を尋ねることが未来のパフォーマンスをより正確に予測できるのか、その理由と根拠を探っていきましょう。

面接担当者だけでなく、面接を受ける側にとっても、どのような質問が自分の強みを最も発揮できるかを知ることは大切です。過去の具体的な行動エピソードを用意しておくことが、採用される可能性を高めるかもしれません。

面接では状況質問より過去行動質問が有効

面接での質問方法は大きく分けると、「状況質問」と「過去行動質問」の二つがあります。状況質問とは、「もし顧客からクレームがあったらどう対応しますか」のように、仮想的な状況への対応を尋ねるものです。一方、過去行動質問は「過去に顧客からクレームを受けた時、どのように対応しましたか」と行動経験を尋ねます。

ある大規模な調査では、この二つの質問方法のうち、どちらが候補者の将来の職務遂行能力をより正確に予測できるかを検証しました[1]。研究者たちは過去の面接に関する研究を幅広く集め、最終的に「状況質問」を用いた30の研究と「過去行動質問」を用いた19の研究、合計49の研究結果を分析しました。

その結果、過去行動質問の方が状況質問よりも将来の職務遂行能力の予測精度が高いことが明らかになりました。具体的には、状況質問の予測精度は過去行動質問の精度を比べて統計的に有意な差がありました。

なぜ過去行動質問の方が予測精度が高いのでしょうか。研究者たちは、過去行動質問が知識や能力だけではなく、「動機づけ」も測定できるからだと解釈しています。過去にどう行動したかは、その人の価値観や行動傾向、そして何より「やる気」を反映しているということです。

対して、状況質問は主に「知っていること」を測定する傾向があります。仮想的な状況で「どうすべきか」を答えることは、正しい対応法を知っていることを示しても、実際にそのように行動する意欲があるかどうかは別問題です。

この研究では、回答の評価方法についても発見がありました。「記述的アンカー付き評価尺度」という、各評価点に行動例が示された評価方法を使うと、特に過去行動質問の予測精度が高くなることがわかりました。これは評価者が候補者の回答を一貫した基準で評価できるようになるためです。

この研究結果は、面接を設計する際には過去行動質問を中心にすることで、将来の職務遂行能力をより正確に予測できることを示しています。「もしこうなったらどうするか」よりも「過去にこうなった時に実際にどうしたか」を尋ねることで、候補者の本当の姿がより明確に見えてくるのです。

管理職の面接でも同様の傾向が認められる

一般的な面接において過去行動質問が状況質問よりも有効であることを見てきましたが、管理職というより複雑な職種の選考においても同じことが言えるのでしょうか。

ある研究グループが大手製紙関連企業の管理職ポジションへの候補者157名を対象に調査を行いました[2]。この研究では「過去の行動に関する質問」と「状況質問」の2種類の面接手法を比較しました。両質問とも、同じ管理職能力(計画・組織化、コーチング、成果指向、学習意欲、チームワーク、コミュニケーション能力)を評価するために作られました。

調査の結果、過去行動質問は管理職の職務パフォーマンスを有意に予測することができたのに対し、状況質問では予測できませんでした。管理職という複雑な職種においても、過去の行動を尋ねる方が将来のパフォーマンスをより正確に予測できることが分かったのです。

この研究の面白い点は、なぜこのような違いが生じるのかについても調べていることです。研究者たちは、面接結果と認知能力テスト、ワークサンプルテスト(実際の業務を模した課題)、そして性格特性との関連を分析しました。

その結果、過去行動質問は認知能力(言語理解力や数的推理力など)と関連していることが分かりました。加えて、リーダーレスグループディスカッションやインバスケットテスト(複数の業務を優先順位づけして処理する課題)といった管理職としての行動能力を測るテストとも強い関連を示しました。

また、過去行動質問は「達成志向性」や「支配性」といった管理職として重要な性格特性とも関連していました。過去行動質問が、単に知識や能力だけでなく、管理職として必要な性格的要素や動機づけも測定できていることを表しています。

このような結果が得られた理由について、研究者たちは、過去の実績を問うため、動機づけや実際の行動傾向を測定しやすく、実際の職務パフォーマンスとより強く関連していると説明しています。対照的に、状況質問は将来的な仮想状況への対応を聞くため、管理職レベルでは実際の行動や動機づけを十分に測定できない可能性があります。

この研究は、責任の重い管理職の選考においては、過去の行動エピソードを聞き出すことが重要であることを示しています。管理職は知識や能力だけでなく、率先して行動する意欲や困難な状況での対応力も必要とされます。過去にどのように行動したかを聞くことで、こうした側面をより正確に評価できるというわけです。

面接で語られる行動が幹部の成功を予測する

さらに上の階層である経営幹部の選抜においても、過去の行動を尋ねる面接は有効なのでしょうか。「行動事象面接」という手法を用いて経営幹部のコンピテンシー(高い業績につながる行動特性)を評価することの有効性が検証されました[3]

行動事象面接とは、面接を通じて過去の具体的な行動・事象を詳細に記述してもらい、その中から職務成功に関するコンピテンシーを特定する手法です。具体的には、優秀なパフォーマンスを示す人々(Oグループ)と、標準的なパフォーマンスを示す人々(Tグループ)に対して、職場で実際に起きたポジティブな出来事3件、ネガティブな出来事3件の計6つのエピソードについて、自分が何を考え、何を感じ、何を行ったかを非常に具体的に説明してもらいます。

この研究では、優秀な経営幹部と標準的な経営幹部の間で、どのようなコンピテンシーに違いがあるかを調査しました。その結果、優秀な経営幹部は、特定のコンピテンシーを標準的な経営幹部よりも高い頻度で示していることが分かりました。特に「イニシアチブ」と「組織的能力」のカテゴリーに属するコンピテンシーが、経営幹部の成功に重要であることが見えてきました。

「ティッピングポイント(臨界点)」という概念を発見した点は特筆に値します。各コンピテンシーのレベルや頻度には、一定の基準(ティッピングポイント)が存在し、その基準を超えると成功する確率が高くなることが判明しました。単純に「多ければ多いほど良い」というわけではなく、特定の水準を超えるかどうかが重要だったのです。

実際の企業での検証も行われました。大手多国籍食品企業で実施された研究では、行動事象面接に基づくコンピテンシー評価が、翌年に経営幹部が実際に得る業績ボーナス(企業内での客観的な成功指標)を予測することができました。

経営幹部に行動事象面接による評価後、コンピテンシーに関するフィードバックを行い、改善のための目標設定を支援すると、翌年の業績が向上したという結果も得られています。これは、過去の行動パターンを特定し、それに基づいたフィードバックが効果的であることを示しています。

伝統的な評価法との比較も行われました。評価者が主観的に評価する方法よりも、行動事象面接に基づく評価の方が高い妥当性を示しました。評価者が推測したコンピテンシーは、実際の成功と一致することもありましたが、その精度は低く、行動事象面接の客観的な方法が優れていると結論づけられています。

この研究は、単なる面接テクニックの問題ではなく、人が実際に行動した事実こそが、その人の将来の行動を正確に予測することを示しています。経営幹部というハイレベルな職種においても、過去の行動エピソードを詳細に聞き出すことが、成功の予測に貢献するということです。

状況質問が動機と能力の両方を測定する

ここまで過去行動質問の有効性について見てきましたが、状況質問には本当に価値がないのでしょうか。詳細な研究結果を見ていくと、状況質問にも独自の価値があることがわかります。

ある研究グループは、面接手法と職場での二種類のパフォーマンスの関係に焦点を当てました[4]。この研究で重要なのは「典型的パフォーマンス」と「最大パフォーマンス」という二つの概念です。

「典型的パフォーマンス」とは、日常的な業務状況で発揮される通常の行動を指し、主に「動機(やる気)」の影響を受けると考えられています。一方、「最大パフォーマンス」とは、短期間の高い集中を求められる状況で発揮される最高の行動を指し、主に「能力」の影響を受けるとされています。

カナダの大学のMBA学生79名を対象に行われたこの研究では、「行動記述面接(過去行動質問)」と「状況面接(状況質問)」がこれら二つのパフォーマンスをどの程度予測できるかを調査しました。

結果は意外なものでした。過去行動質問は典型的パフォーマンスとの相関は高いものの、最大パフォーマンスとの相関は低く、統計的に有意ではありませんでした。しかし状況質問は、典型的パフォーマンスとの相関が高いだけでなく、最大パフォーマンスとも有意な相関がありました。

要するに、状況質問は日常的な業務パフォーマンスだけでなく、高い集中力が必要な状況での能力も予測できるということです。この結果から、状況質問は動機的側面を中心としながらも、能力的側面も一部評価していることが示唆されました。

状況質問は「仮想的状況への対応力」を問うことで、候補者の知識や問題解決能力といった「能力」の側面も評価できているのかもしれません。一方、過去行動質問は実際の行動を問うことで「動機づけ」を中心に評価しているようです。

この結果は、面接設計において示唆を与えてくれます。長期的・日常的な行動を予測したい場合は、どちらの質問形式も有効ですが、短期的で能力が特に問われる状況(危機管理や緊急対応職務など)のパフォーマンスを予測したい場合、状況質問の使用も検討すべきかもしれません。

別の見方をすれば、過去行動質問と状況質問は互いに補完し合う関係にあると言えます。過去行動質問で候補者の動機づけや行動パターンを評価しつつ、状況質問で知識や問題解決能力も評価することで、より総合的な人材評価が可能になるでしょう。

この研究は、過去行動質問が常に状況質問より優れているわけではなく、評価したい側面によって使い分けることの重要性を示しています。初めての業種や職種に応募する人の場合、関連する過去の経験が少ないため、状況質問で能力や潜在性を評価することが適切かもしれません。

面接では経験ベースの質問が有効

最後に、より広い文脈での「経験ベースの質問」の有効性について見ていきましょう。ある研究では、連邦政府機関の専門職従業員216名を対象に、「経験ベースの質問」と「状況質問」の妥当性を比較しました[5]

この研究では、両形式の質問が職務分析に基づいて作成され、内容的にも類似した対応関係を持つよう設計されました。参加者は経験ベース質問群または状況質問群にランダムに割り当てられ、面接後1年間の職務パフォーマンスを直属の上司が評価しました。

その結果、経験ベース質問のパフォーマンス予測妥当性は高く、有意でした。しかし状況質問は職務パフォーマンスとの相関がなく、予測妥当性を示しませんでした。この研究においては、経験ベース質問が状況質問より明確に優れていることが示されました。

研究者たちは、経験ベース質問が過去の実績を問うため、動機づけや実際の行動傾向を正確に反映しやすいと解釈しています。一方、状況質問が今回妥当性を示さなかった理由として、質問の回答方法や質問形式自体の微妙な差異、職務の複雑性などが指摘されました。

この研究ではさらに、経験ベース質問と認知能力テストの関係も調査されました。別の464名の従業員を対象とした追加調査では、経験ベース質問は認知能力テストよりも高いパフォーマンス予測妥当性を示しました。言い換えれば、経験ベース質問は、認知能力テストを超えて職務パフォーマンスを予測する能力があったということです。

もう一つ重要な発見は、公平性に関するものでした。経験ベース質問は人種(白人・黒人・ヒスパニック)や性別(男性・女性)による差別的妥当性は見られず、すべてのサブグループにおいて妥当性は等しく高いことがわかりました。さらに、サブグループ間の面接成績の差も小さく、多様性を重視する人材選抜にも有用であることが示されました。

脚注

[1] Taylor, P. J., and Small, B. (2002). Asking applicants what they would do versus what they did do: A meta-analytic comparison of situational and past behavior employment interview questions. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 75(3), 277-294.

[2] Krajewski, H. T., Goffin, R. D., McCarthy, J. M., Rothstein, M. G., and Johnston, N. (2006). Comparing the validity of structured interviews for managerial-level employees: Should we look to the past or focus on the future? Journal of Occupational and Organizational Psychology, 79(3), 411-432.

[3] McClelland, D. C. (1998). Identifying competencies with behavioral-event interviews. Psychological Science, 9(5), 331-339.

[4] Klehe, U. C., and Latham, G. (2006). What would you do? really or ideally? Constructs underlying the behavior description interview and the situational interview in predicting typical versus maximum performance. Human Performance, 19(4), 357-382.

[5] Pulakos, E. D., and Schmitt, N. (1995). Experience-based and situational interview questions: Studies of validity. Personnel Psychology, 48(2), 289-308.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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