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コラム

心理的資本の力:従業員のポテンシャルを引き出す鍵

コラム

現代の企業経営において、従業員の心理的資本(Psychological Capital: PsyCap)が業績や職務満足度に与える影響が注目されています。心理的資本とは、希望、楽観主義、自己効力感、レジリエンスの4つの要素から成る概念であり、個人のポジティブな心理状態を測る指標として用いられます。

心理的資本、社会関係資本(Social Capital)、人的資本(Human Capital)は、個人と組織の成長において相互に影響を及ぼす重要な要素です。心理的資本が高い従業員は、自己効力感や楽観主義を持ち、学習や挑戦に積極的であるため、人的資本の向上につながります。また、心理的資本は他者との信頼関係の構築を促し、社会関係資本を強化する効果があります。

特に、デジタル化やリモートワークの普及により、社会関係資本の希薄化が課題となる中、心理的資本の向上が個人の適応力やエンゲージメントを高め、持続的な組織の発展に貢献すると考えられます。

本コラムでは、心理的資本が従業員のパフォーマンス向上や組織文化の発展にどのように貢献するのか、また企業がどのような施策を通じて心理的資本を強化できるのかについて詳しく解説していきます。

心理的資本は業績および職務満足度を高める

まずこの研究は、従業員の心理的資本が業績および職務満足度にどのような影響を与えるのかを明らかにした研究を紹介します[1]。特に、心理的資本の主要な構成要素である希望、楽観主義、自己効力感、レジリエンスが、個別に、また統合された形でどのような役割を果たすのかを調査しました。

心理的資本の構成要素は、次の意味を持ちます。

1. 自己効力感:困難な課題に挑戦し、成功するために必要な努力をする自信を持っていること

2. 楽観主義:現在および将来の成功について肯定的な評価をすること

3. 希望:成功するために、目標に向かって忍耐強く努力し、必要な場合には目標への道筋を転換すること

4. レジリエンス:問題や逆境に見舞われても、成功を達成するために、それを維持し、立ち直り、さらにはそれを超えること

研究の結果、心理的資本は業績および職務満足度と正の相関(一方が増えれば、もう一方も増える関係)を持つことが明らかになりました。特に、心理的資本を構成する4つの要素のいずれか単独よりも、心理的資本全体としてのスコアのほうが、業績や職務満足度をより強く予測することが示されました。これは、希望、楽観主義、自己効力感、レジリエンスが相互に作用し合うことで、個別の要素以上の影響を生み出す可能性を示唆しています。

実践的含意として、従業員の心理的資本を向上させることは、組織にとって有用であることが示されました。例えば、従業員の自己効力感を高めるために、成功体験を積ませる機会を提供することが効果的です。また、希望や楽観主義を育むために、明確な目標設定を取り入れることが有用でしょう。レジリエンスを高めるためには、挑戦的な状況に適応する能力を養うトレーニングを導入することが考えられます。

マネジメントへの応用としては 心理的資本を向上させるための具体的な施策として、管理職によるコーチングやメンタリングが挙げられます。例えば、従業員の心理的な強みを引き出すために、成長を支援するフィードバックを提供することが重要です。また、組織文化として、ポジティブな職場環境を醸成することで、従業員の心理的資本を強化できます。特に、変革型リーダーシップを導入し、例えばリーダーが率先して希望や楽観主義を示すことで、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。

心理的資本は望ましい従業員の態度や行動をより強調する

この研究は、心理的資本が従業員の態度、行動、および業績に与える影響をメタ分析した研究があります[2]。メタ分析とは、独立して実施された複数の研究結果を統合し、それらを解析する方法です。特に、希望、楽観主義、自己効力感、レジリエンスの4つの要素が、個別におよび統合された形でどのような影響を持つのかを検討しました。

この研究では、12,567名の従業員を対象に、心理的資本と従業員の職務満足度(自分の仕事に対して感じるやりがいや満足感)、組織コミットメント(社員が会社に対して感じる愛着や貢献したいという意欲)、心理的ウェルビーイング(仕事や生活において前向きな気持ちを持ち、充実感や満足感を感じられる心の健康状態)、離職意向、職務ストレス、不安、職場の逸脱行動(規則違反や非生産的行動)、組織市民行動(会社の正式な業務ではないが、職場を良くするために自主的に行う貢献行動)、および業績との関係を分析しました。

調査の結果、心理的資本は望ましい従業員の態度や行動と正の関係を持ち、望ましくない態度や行動とは負の関係を持つことが示されました。特に、心理的資本が高い従業員は、組織コミットメントや職務満足度が高く、積極的な業務遂行や組織市民行動を示しやすい一方で、離職意図や職務ストレス、不正行動の発生率が低いことが確認されました。また、心理的資本の影響は特に米国の企業やサービス業において強く表れることが明らかになりました。

心理的資本が高い従業員は、職務満足度や組織コミットメントが高く、心理的ウェルビーイングを持ちやすいことが確認されました。一方で、離職意向、職務ストレス、不安の低減にも寄与することが示されています。また、心理的資本は、組織市民行動を促進し、職場の逸脱行動を抑制することが分かりました。これらの結果は、心理的資本が従業員の職場における行動全般を向上させる可能性を示唆しています。

心理的資本が高い従業員は、業務の達成度が高く、上司からの評価も良好である傾向が見られました。特に、サービス業において心理的資本の影響が大きいことが示され、顧客対応やチームワークが求められる環境では心理的資本が重要な要因であると考えられます。

マネジメントへの応用としては、リーダーが従業員の心理的資本を支援することが重要です。例えば、リーダーが困難なプロジェクトに直面した際に「この挑戦は大きいが、これまでの成功体験を活かせば必ず乗り越えられる」と前向きなビジョンを示し、従業員一人一人の強みを認めながら具体的な目標達成の道筋を示すことで、チームの希望を喚起できます。また、組織文化として、心理的安全性を確保し、従業員が挑戦しやすい環境を整えることも心理的資本の向上に寄与します。

オーセンティック・リーダーシップが従業員の自己効力感を高める

オーセンティック・リーダーシップが従業員の心理的資本(Psychological Capital, 心理的資本)と創造性に及ぼす影響を検証した研究を紹介します[3]。ポルトガルの商業組織で働く201名の従業員を対象に調査を実施し、リーダーが持つオーセンティック・リーダーシップの特性が従業員の心理的資本を高め、それが創造性を促進するプロセスを明らかにしました。

オーセンティック・リーダーシップは、自己認識、関係性の透明性、内面化した道徳視点、バランスのとれた処理、という4つの要素から構成され、リーダーが自己の価値観に基づいた行動をとり、従業員との信頼関係を構築することで、ポジティブな組織環境を生み出します。この研究の結果から、オーセンティック・リーダーシップが心理的資本の構成要素である自己効力感、楽観主義、希望、レジリエンスを高め、それが従業員の創造性に正の影響を及ぼすことが確認されました。

オーセンティック・リーダーシップと心理的資本の関連性について、この研究はオーセンティック・リーダーシップが従業員の自己効力感を高めることを示唆しています。自己効力感とは、従業員が自身の能力を信じ、挑戦的な課題にも積極的に取り組む姿勢を指します。オーセンティック・リーダーシップを持つリーダーは、従業員の強みに注目し、フィードバックを適切に提供することで、自己効力感を強化します。また、オーセンティック・リーダーシップは希望と楽観主義にも寄与し、従業員が困難に直面した際に前向きな視点を持つことを助けます。さらに、レジリエンスの向上にも貢献し、変化の激しい環境においても従業員が適応し続ける力を高めます。

オーセンティック・リーダーシップが従業員の創造性に与える影響について、この研究は心理的資本の媒介(ある要因が別の要因に影響を与える際の仲介要素)効果を示しています。自己効力感が高い従業員は、課題解決のために新しい方法を探求しようとする傾向があり、希望と楽観主義が強いことで、失敗を恐れずに創造的なアプローチを試みる姿勢が生まれます。また、レジリエンスが高いと、困難を乗り越えながら新たなアイデアを生み出す力が向上します。オーセンティック・リーダーシップがこのような心理的資本を育むことで、結果的に従業員の創造性が向上するのです。

実践的含意として、企業におけるリーダー育成の重要性が挙げられます。オーセンティック・リーダーシップを備えたリーダーを育成することで、従業員の心理的資本が向上し、それが組織のイノベーション推進につながる可能性があります。そのためには、リーダーに対する自己認識の促進、倫理的な判断力の向上、オープンなコミュニケーションの強化を目的とした研修プログラムの導入が有用でしょう。

また、組織文化としてオーセンティック・リーダーシップを促進するためには、上司と部下の関係性を強化し、フィードバックの質を向上させる仕組みづくりが求められます。例えば、従業員が安心して意見を述べられる環境を整え、ポジティブなフィードバックを積極的に活用することで、心理的資本を高めることができます。さらに、リーダーが従業員の成長をサポートする姿勢を示すことで、創造的な取り組みを促進し、企業の競争力向上に寄与するでしょう。

リーダーと従業員の関係性が心理的資本に強く影響を与える

心理的資本は、従業員の仕事に対する満足度や業績に影響を与える要因として注目されています。心理的資本に関する81の論文を対象にメタ分析を行い、その影響因子と職場環境との関係を明らかにした研究を紹介します[4]

分析の結果、心理的資本は組織風土、組織的公正(会社が社員を公平・公正に扱い、信頼や納得感を生む仕組みや文化)、オーセンティック・リーダーシップ、リーダーメンバー交換(上司と部下の信頼関係の質が、仕事の成果や満足度に影響を与えるという考え方)、職業性ストレスと有意な関連があることが確認されました。

また、心理的資本の高い従業員は、職務満足度や業績が向上し、組織市民行動を促進し、不適切な行動、具体的には、怠惰な勤務態度、ルール違反、対人トラブルの増加、業務のサボタージュなどを抑制する傾向があることが示されました。

この研究では、心理的資本の向上が企業にとってどのような影響を持つのかについて検討されています。特に、リーダーと従業員の関係性が心理的資本に強く影響を与えることが示され、オーセンティック・リーダーシップの重要性が再認識されました。このようなリーダーのもとでは、従業員は自信を持って業務に取り組み、ポジティブな行動を促進することが期待できます。

また、心理的資本が組織市民行動に与える影響も明らかになりました。組織市民行動には例えば、同僚のサポートやチームワークの向上に貢献する行動が含まれます。心理的資本が高い従業員ほど、こうした行動を積極的に取ることが確認されました。これは、職場の雰囲気を向上させ、チーム全体の生産性を高める要因となります。

一方で、職業性ストレスと心理的資本の関係についても興味深い結果が得られました。一般的に、ストレスが高い環境では心理的資本が低下しやすいと考えられますが、この研究では、適度なストレスが心理的資本の向上に寄与する可能性があることが示唆されました。これは、挑戦的な業務を通じて従業員が自己効力感を高め、レジリエンスを強化するためと考えられます。しかし、過度なストレスは逆効果となるため、職場環境のバランスを適切に調整することが重要です。

これらの結果を踏まえると、マネジメントにおいては、心理的資本を高めるための取り組みが有効と考えられます。具体的には、以下のような施策が有用です。

1. オーセンティック・リーダーシップの強化
オーセンティック・リーダーシップの実践を通じて、従業員との信頼関係を構築することが重要です。リーダーは、意思決定の透明性を確保し、従業員の意見を積極的に取り入れることで、心理的資本の向上を促進できます。

2. 組織文化の改善
組織風土や組織的公正を高めることで、従業員の心理的資本を向上させることができます。具体的には、公正な評価制度や、フィードバックの充実が効果的です。

3. ストレス管理の最適化
適度な挑戦を提供しながら、過度なストレスを軽減するための支援体制を整えることが重要です。例えば、メンタルヘルス支援プログラムの導入や、ワークライフバランスを考慮した勤務制度の設計が挙げられます。

4. 心理的資本向上のための研修
従業員が自己効力感やレジリエンスを高められるよう、定期的なトレーニングを実施することも有用です。特に、新入社員や管理職向けに心理的資本の重要性を伝える研修を行うことで、組織全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。

この研究の結果は、企業の持続可能な経営において心理的資本の役割が極めて重要であることを示唆しています。心理的資本を高めることで、従業員の満足度や業績が向上し、組織全体の生産性が高まる可能性があります。したがって、企業のマネジメント層は、従業員の心理的資本の向上を積極的に支援することで、より良い職場環境の構築に取り組むことが望ましいでしょう。

心理的資本の向上が組織文化全体の改善や持続的な成長に繋がる

組織における個人の心理的資本に焦点を当て、希望、自己効力感、レジリエンス、楽観主義の4要素がどのように組み合わさり、従業員の態度や業績に寄与するかを検証した研究があります[5]。この研究は、企業や公共機関など多様な組織内の従業員を対象に、自己報告尺度やメタ分析、さらには暗黙的な評価方法(従業員が自覚的に回答する自己報告尺度とは異なり、無意識の心理的資本を測定する手法)を用いることで、これらの心理的資本の測定とその実践的な影響を明らかにしました。

この研究では、心理的資本が短期間のトレーニング介入を通じて十分に育成可能であることが示され、従業員のモチベーション向上やストレス耐性の強化、さらにはチーム全体のパフォーマンス向上に寄与する可能性が実証的に支持されております。具体的には、リーダーシップの変容プロセス(リーダーが自身の行動や考え方を進化させ、組織やチームにより良い影響を与えるよう成長していく過程)やゲーミフィケーションを活用した介入策が、従業員の心理的資本の増強に効果的であるとされ、実務においても有用であることが示唆されております。

また、研究結果は心理的資本の向上が、従来の短期的な刺激策とは異なり、組織文化全体の改善や持続的な成長に結びつく可能性を示しており、従業員一人ひとりが内在するポジティブな資源を高めるための環境整備が、マネジメントへの応用において効果的であると考えられます。例えば、定期的なフォローアップやコーチングを取り入れたトレーニングプログラムが、従業員の主体性と連帯感を促進し、ひいては業績向上へと寄与するでしょう。

支援的な職場環境の整備が効果的

心理的資本に焦点を当て、社会的交換理論(Social Exchange Theory: SET)の視点からその先行要因と結果をメタ分析的手法で検討した研究を紹介します[6]。この研究は、2000年から2018年に発表された105の一次研究を統合し、オーセンティック・リーダーシップ、倫理的リーダーシップ、虐待的リーダーシップといったリーダーシップの各スタイルや、組織的支援(Perceived Organizational Support: POS、従業員が組織から評価と公正な処遇を受けていると認識すること)を、心理的資本の形成要因として位置づけ、その結果として職務満足度、組織コミットメント、組織市民行動といった望ましい勤務態度に与える影響を明らかにしました。

この研究のメタ分析の結果、オーセンティックおよび倫理的なリーダーシップは、部下の心理的資本に有意な正の影響を及ぼすことが示され、一方で虐待的リーダーシップは負の影響(一方が増えると、もう一方は減る関係)を与えることが明らかとなりました。また、組織的支援の存在は心理的資本を高める効果が確認され、さらに心理的資本自体が職務満足度、組織コミットメント、組織市民行動といった勤務態度と正の相関を持つことが示されました。

加えて、従業員の年齢や在職期間などの特性が、心理的資本と勤務態度との関係において緩和的役割を果たすことも確認され、例えば、在職期間が長い従業員では、心理的資本が高い場合の職務満足度や組織コミットメントの効果がより顕著に現れる傾向が見受けられました。一方、組織市民行動に関しては、在職期間が短い従業員の方がより活発な傾向が示されたため、従業員の特性が与える影響を考慮することが重要でしょう。 

以上の知見は、組織が従業員の心理的資本を育成するための施策を設計する際、倫理的かつオーセンティックなリーダーシップの実践や、支援的な職場環境の整備が効果的である可能性を示唆しています。たとえば、リーダーシップ開発プログラムにおいて、リーダー自身が積極的に模範となる行動を示し、部下に対して公正かつ温かくサポートし、公正に評価することが、従業員の心理的資本向上に寄与する可能性が考えられます。

また、採用や人材育成のプロセスにおいて、従業員の在職期間や個々の特性を考慮した取り組みを行うことで、長期的に前向きな働き方を促進できると考えられます。

心理的資本はストレスの緩和や前向きな感情、生活全般の満足度に効果あり

心理的資本が個人の全体的なウェルビーイングに与える影響について検討した研究を紹介します[7]。研究は、人間の強みや最適な機能がウェルビーイングの促進にどのように役立つのかを探ることを目的としています。特に、精神疾患や問題行動と異なる視点から、ポジティブ組織行動(社員の強みや前向きな姿勢を活かし、仕事のパフォーマンスや職場の活気を高める行動)の枠組みに注目し、希望、自己効力感、レジリエンス、楽観主義の4要素を統合した心理的資本が、ストレス対処、生活満足度や仕事満足度とどのように関連するかを明らかにすることを目的としました。

調査の対象は、職場を含む様々な生活環境で活動する個人であり、横断的および縦断的な実証研究の積み重ねにより、複数の尺度を用いて心理的資本とウェルビーイングの関係性が統計的に検証されました。

調査結果としては、心理的資本とウェルビーイングとの間に正の相関が確認され、従業員が高い心理的資本を有する場合、ストレスの緩和や前向きな感情、さらには生活全般の満足度向上が観察される傾向が見受けられました。

また、実践的含意としては、企業において従業員の心理的資本を向上させるための介入策が、比較的短時間で実施可能であり、その育成プログラムは、従業員個々の自己効力感やレジリエンスを高め、結果としてストレス管理や仕事への積極的な態度、ひいては組織全体のパフォーマンス向上に効果的に寄与する可能性が示唆されます。

たとえば、リーダーシップ研修やコーチングセッションの中に心理的資本を強化する内容を取り入れることで、従業員のウェルビーイングを高める施策として有用であると考えられ、経営戦略の一環として検討されるとよいでしょう。

トレーニングやコーチングで心理的資本は向上する

心理的資本の概念とその実務的応用可能性について概観した研究を紹介します[8]。研究のテーマは、心理的資本が、従業員の望ましい態度や行動、ひいては業績にどのように寄与するかを文献レビューという方法で明らかにすることです。主要な学術データベースを用いた文献検索と厳密なスクリーニングにより、関連論文を体系的に分析したものです。

調査結果としては、心理的資本が高い従業員は、職務満足度や組織コミットメント、組織市民行動といった望ましい勤務態度や行動を示す傾向があり、逆に退職意向や冷笑主義などの否定的な態度との間には負の相関が確認されました。さらに、特定のトレーニングセッションやコーチングなどの介入プログラムによって、従業員の心理的資本レベルが向上することも示唆されており、これが組織全体のパフォーマンス向上に寄与する可能性があると実証的に支持されています。

実践的含意としては、企業が採用選考や能力開発のプロセスにおいて、心理的資本を評価基準の一つとして活用することが、従業員のポジティブな心理状態を促進し、ストレス耐性や創造性の向上、さらには戦略的意思決定の質の改善につながると考えられます。たとえば、従業員研修プログラムに心理的資本育成の要素を組み込み、グループディスカッションやケーススタディを通して自己効力感や希望の醸成に努める取り組みは、経営戦略上も有用であると言えるでしょう。

心理的資本は個人のポテンシャルを最大限に引き出す

本コラムでは、心理的資本が従業員の職務満足度や業績向上に与える影響について考察しました。研究結果から明らかになったのは、心理的資本が高い従業員ほど、望ましい態度や行動を示し、組織にとって有益な成果を生み出すということです。特に、希望、楽観主義、自己効力感、レジリエンスが相互に作用しながら、個人のポテンシャルを最大限に引き出し、ストレス耐性や創造性を高める効果があることが確認されました。

これらの知見を踏まえると、企業が心理的資本を向上させるための施策を積極的に導入することの重要性が浮かび上がります。具体的には、以下のような取り組みが有効と考えられます。

1. オーセンティック・リーダーシップの強化

  • オーセンティック・リーダーシップを実践し、従業員との信頼関係を構築する。
  • 成長を支援するフィードバックを提供し、従業員の自己効力感を高める。

2. 支援的な職場環境の整備

  • 公正な評価制度を導入し、従業員が公平に扱われていると感じられる環境を整える。
  • ワークライフバランスを考慮した勤務制度を導入し、心理的安全性を確保する。

3. 心理的資本向上のための研修・トレーニング

  • 成功体験を積ませる機会を提供し、自己効力感を強化する。
  • 楽観主義や希望を育むための目標設定ワークショップを実施する。
  • レジリエンスを高めるために、困難な状況への適応能力を養うプログラムを導入する。

4.ストレス管理とメンタルヘルスの支援

    • 従業員の心理的負担を軽減するために、メンタルヘルスプログラムを導入する。
    • 適度な挑戦を提供しながら、過度なストレスを防ぐ仕組みを設ける。

    これらの取り組みを通じて、企業は従業員の心理的資本を高め、組織全体の生産性向上や持続可能な成長を実現することが可能になります。特に、変化の激しいビジネス環境においては、心理的資本を強化することが従業員の適応力を高め、企業競争力を維持する鍵となるでしょう。

    今後の企業経営においては、心理的資本の概念を組織戦略に組み込み、積極的にその向上を支援することが求められます。従業員一人ひとりが心理的資本を高め、前向きな姿勢で業務に取り組むことができる環境を整えることが、組織の成功に直結するのです。 

    脚注

    [1] Luthans, F., Avolio, B. J., Avey, J. B., & Norman, S. M. (2007). Positive psychological capital: Measurement and relationship with performance and satisfaction. Personnel psychology, 60(3), 541-572.

    [2] Avey, J. B., Reichard, R. J., Luthans, F., & Mhatre, K. H. (2011). Meta‐analysis of the impact of positive psychological capital on employee attitudes, behaviors, and performance. Human resource development quarterly, 22(2), 127-152.

    [3] Rego, A., Sousa, F., Marques, C., & e Cunha, M. P. (2012). Authentic leadership promoting employees’ psychological capital and creativity. Journal of business research, 65(3), 429-437.

    [4] Kong, F., Tsai, C. H., Tsai, F. S., Huang, W., & De la Cruz, S. M. (2018). Psychological capital research: A meta-analysis and implications for management sustainability. Sustainability, 10(10), 3457.

    [5] Luthans, F., & Youssef-Morgan, C. M. (2017). Psychological capital: An evidence-based positive approach. Annual review of organizational psychology and organizational behavior, 4(1), 339-366.

    [6] Wu, W. Y., & Nguyen, K. V. H. (2019). The antecedents and consequences of psychological capital: A meta-analytic approach. Leadership & Organization Development Journal, 40(4), 435-456.

    [7] Youssef‐Morgan, C. M., & Luthans, F. (2015). Psychological capital and well-being. Stress & health: Journal of the International Society for the Investigation of Stress, 31(3).

    [8] Nolzen, N. (2018). The concept of psychological capital: a comprehensive review. Management Review Quarterly, 68(3), 237-277.


    執筆者

    樋口 知比呂 株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
    早稲田大学政治経済学部卒業、カリフォルニア州立大学MBA修了、UCLA HR Certificate取得、立命館大学大学院博士課程修了。博士(人間科学)。国家資格キャリアコンサルタント。ビジネスの第一線で30年間、組織と人に関する実務経験、専門知識で、経営理論を実践してきた人事のプロフェッショナル。通信会社で人事担当者としての経験を積み、その後、コンサルティングファームで人事コンサルタントやシニアマネージャーを務め、さらに銀行で人事部長などの役職を歴任した後、現在はFWD生命にて執行役員兼CHROを務める。ビジネスと学術研究をつなぐ架け橋となることを目指し、実践で役立つアプローチを探求している。

    #樋口知比呂

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