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コラム

日本における副業の実態と意義:実証研究から見える可能性

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「副業」という言葉を聞いて、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。収入を増やすための手段、本業では得られないスキルを身につける機会、あるいは将来の独立に向けた準備段階など、様々な捉え方があるでしょう。日本社会では副業に対する関心が高まっています。政府も働き方改革の一環として副業・兼業を推進し、企業の間でも副業を許可する動きが広がりつつあります。

しかし、副業が個人や社会にどのような意味を持つのか、どのような効果をもたらすのかについては、必ずしも明確な理解が得られているわけではありません。副業は収入増加の手段なのでしょうか。それとも、個人の成長やキャリア形成に寄与する活動なのでしょうか。あるいは、新たな起業家を生み出す土壌となるのでしょうか。

本コラムでは、日本における副業に関する実証研究に焦点を当て、その実態と意義を多角的に検討します。副業を持つ理由と仕事内容の関係、経済状況と副業率の関連性、副業が本業に与える育成効果、そして副業としての起業活動について、研究成果を紹介しながら考察を深めていきます。

副業に関する理解を深めることは、個人のキャリア選択だけでなく、企業の人材育成戦略や政府の労働政策にも有益な視点を提供するでしょう。副業の多様な側面を学術的な視点から整理することで、より豊かな働き方の可能性について考えるきっかけとなれば幸いです。

副業の理由で仕事が異なる

副業というと、「お金が足りないから始める」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、現実には副業を持つ理由は人それぞれであり、その理由によって副業の内容も異なることが分かっています。この点に着目し、副業の理由と内容の関連性を分析した研究があります[1]

この研究では、副業を持つ理由を大きく二つに分けています。一つは「金銭的動機」で、本業の収入だけでは足りないため副業で補おうとするものです。もう一つは「非金銭的動機」で、自己実現やスキルアップ、将来のキャリア形成などを目的とするものです。

13万人以上を対象としたインターネット調査のデータを用い、副業保有の要因を多角的に分析しています。統計的手法を使い、副業保有に影響を与える様々な要因を検討しました。

分析結果から見えてきたのは、金銭的動機と非金銭的動機では、副業保有に関わる要因が異なる点です。金銭的動機で副業を持つ人の特徴として、本業の労働日数が少ない、賃金が低い、不労所得(世帯収入から本業収入を除いた所得)が少ないといった傾向があります。経済的に余裕がなく、時間的な余裕がある人が、生活を支えるために副業を選ぶことが多いのです。

一方、非金銭的動機で副業を持つ人の特徴は異なります。不労所得が多く、本業の賃金や労働時間の影響は比較的小さい傾向があります。これは、経済的な必要性よりも個人の嗜好や自己啓発意欲によって副業を選択していることを表しています。

副業の内容に関する分析からは、動機によって副業の性質も違うことが明らかになりました。金銭的動機による副業は、本業とは異なる職種が多く、本業のスキル形成にはあまり役立っていません。これは、本業と副業が「代替的関係」にあるということです。本業で得られないものを副業で補う関係です。

対照的に、非金銭的動機による副業では、専門的な職業が多く、本業との関連性や自己啓発効果が高い傾向があります。これは本業と副業が「補完的関係」にあることを示しており、副業が本業のスキルや知識を補強する役割を果たしています。

この研究から学べることは、副業は一律に捉えるべきではなく、その動機や目的によって性質が異なるという点です。「副業を持っている」という事実だけでなく、「なぜ副業を持つのか」という動機の部分に注目することが、副業の実態を理解する上で大切です。

副業は不況より好況で増える

副業について考えるとき、「不況になれば、収入を補うために副業をする人が増える」と想像するかもしれません。しかし、実際のデータからはそれとは異なる事実が見えてきます。日本と米国の労働市場における副業の実態が比較されています[2]

研究では、日本の総務省統計局「就業構造基本調査」と米国国勢調査局の月別家計調査(CPS)のデータを用いて、両国の副業従事率の変化を経年的に追跡しています。日本の副業従事率は、1970年代後半に約5.9%でピークを迎えた後、徐々に低下し、2002年以降は約3.5%前後で安定しています。一方、米国の副業従事率も1995年以降は低下傾向にあり、2010年以降は約5%で安定しています。

注目すべき発見は、副業従事率と景気循環の関係です。一般的には、景気が悪化して収入が減少すると、その穴埋めのために副業に取り組む人が増えると考えられるかもしれません。これを「反循環的」な動きと呼びます。ところが、データを分析した結果、日米ともに副業従事率は不況時に増加するのではなく、むしろ好況時に増加する「正循環的」な動きを示していました。

この結果は何を意味するのでしょうか。一つの解釈として、景気が良い時期は新たな仕事の機会が増え、副業を始めやすい環境が整うことが考えられます。景気が良いと人々の消費意欲も高まり、様々なサービスへの需要が増加するため、副業の機会も生まれやすくなるのでしょう。

研究では副業従事者の属性についても分析しています。日本では2002年以降、副業従事率で女性が男性を上回るようになり、女性の副業が増加しています。年齢別では高齢層(55歳以上)の副業従事率が高く、近年では若年層(35歳未満)でも増加傾向が見られます。米国でも2000年以降は女性の副業従事率が男性を上回っています。

産業別に見ると、日米ともに製造業は副業が少なく、サービス業や教育関連産業では副業従事率が高い傾向にあります。これは製造業では勤務時間が固定的で柔軟な働き方がしにくい一方、サービス業や教育関連産業では比較的時間の融通が利くことが関係しているかもしれません。

地域別の分析も行われています。日本では以前は都道府県によって副業従事率に差がありましたが、2012年以降はその差が縮小傾向にあります。東京や大阪などの都市部で副業従事率が上昇している一方、地方圏では下落しています。米国では地域間の差が大きく、中西部(特に西部)で副業従事率が高く、南部や大西洋岸の都市圏では低い傾向が続いています。

この研究から得られる重要な視点は、副業が「苦しい時の所得補填手段」ではなく、労働市場の安定した一部になりつつあるということです。副業を持つことは、必ずしも経済的な困窮の表れではなく、むしろ新たな働き方を模索する選択である可能性が示唆されています。

また、女性や高齢者の副業参加が増えていることは、これらの層にとって副業が労働参加の形態となっていることを表しています。多様な働き方を実現し、労働力を確保する上で、副業の促進が一つの手段となる可能性があります。

副業は目的次第で人を育てる

副業は、お金を稼ぐ手段だけではなく、人材育成の観点からも注目されています。副業を含む社外活動が本業にどのような影響を与えるのかを「ジョブ・クラフティング」という概念を通して検証した研究を紹介しましょう[3]

ジョブ・クラフティングとは、労働者自身が主体的に仕事を再定義・改善する行動のことです。例えば、自分の仕事の範囲や方法を自発的に見直したり、仕事上の人間関係を積極的に構築したりすることが含まれます。研究では、副業などの社外活動が、このような本業での主体的な行動にどう関わるのかを調べています。

調査は、従業員300名以上の企業で働く正社員721名を対象に実施されました。社外活動として、副業、ボランティア活動、プロボノ活動(専門的なスキルを活かした社会貢献活動)、趣味・サークル活動、地域コミュニティ活動、勉強会・ハッカソン、自社業務外活動、異業種交流会の8種類を設定し、それぞれの特徴と本業への影響を分析しています。

各社外活動の特徴を見てみましょう。副業は主に本業への不満やキャリア探索、副収入を目的とする場合が多く、人脈拡大の要素は比較的弱いことが分かりました。ボランティアや地域コミュニティ活動は社会貢献を主な目的とし、人脈拡大や他者との相互作用が強い傾向があります。勉強会や異業種交流会は本業への不満もありますが同時に成長への期待も高く、新しいスキル習得や相互作用が活発です。趣味・サークル活動は本業への不満とは関係なく参加することが多く、新しい人との交流が主な目的となっています。

これらの社外活動が本業でのジョブ・クラフティング(主体的な改善行動)にどのような影響を与えるかを分析しました。その結果、「活動での成長期待」「新しいスキルと試行錯誤」「相互作用」の3つが本業でのジョブ・クラフティングを促進する要素であることが明らかになりました。自己成長を期待して社外活動に取り組み、新しいスキルを習得し、多様な人々と交流することが、本業での主体的な改善行動につながるのです。

一方、「本業への不満とキャリア探索」を目的とした社外活動は、むしろ本業でのジョブ・クラフティングに否定的な影響を及ぼすことも分かりました。また、副収入を得ることを目的とした活動は、本業への影響がほとんど見られませんでした。

これらの結果から、副業を含む社外活動が本業に良い影響を与えるかどうかは、その目的や性質に左右されることが見えてきます。副業そのものに一律の人材育成効果があるわけではなく、どのような目的で、どのような内容の副業に取り組むかが鍵となります。

とりわけ、自己成長を目指して多様な人々と交流し、新たなスキルを習得するような副業は、本業での主体的な改善行動を促進する可能性が高いのです。逆に、本業への不満から逃れるために、または収入増加だけを目的とした副業は、本業にあまり良い影響を与えないかもしれません。

この研究の価値は、副業や社外活動を一律に捉えるのではなく、その目的や性質に注目することの大切さを示した点にあります。企業が副業を許可する際には、「副業OK」というだけでなく、どのような副業が従業員の成長や本業のパフォーマンス向上につながるのかを考慮する必要があるでしょう。

副業起業が起業を促す

副業の一形態として近年注目されているのが「副業起業」です。これは、雇用を維持したまま自分の事業を始める形態を指します。ある研究は、この副業起業が将来的な本格的起業(専業の自営業者となること)にどのような影響を与えるのかを実証的に分析しています[4]

研究では、副業経験が起業に与える影響について、特に「副業起業」という形態に焦点を当てています。研究者は、「副業を持つことは起業の可能性を高めるか」「特に副業起業は他の副業形態よりも起業の可能性を高めるか」という2つの仮説を検証しました。

分析には、リクルートワークス研究所による「全国就業実態パネル調査」(20172021年)のデータが使用されました。パネル調査とは、同じ対象者を追跡して継続的に調査する方法で、時間の経過に伴う変化を捉えるのに適しています。この調査データを用いて、副業の有無や形態が翌年の起業状況にどう関連するかを分析しました。

分析の結果、副業を持つこと自体は、将来的に専業の自営業者として起業する可能性を高めるとは言えないことが明らかになりました。アルバイトなどの雇用形態での副業は、起業につながるわけではないのです。

一方で、副業として自分自身で事業を営む「副業起業」を行っている人は、専業の自営業者へと移行する可能性が統計的に有意に高いことが示されました。ただし、その効果は比較的小さく、副業起業が必ずしも専業起業に強く直結しないことも分かりました。

それでも、なぜ副業起業だけが専業起業の可能性を高めるのでしょうか。研究者は、副業起業という経験を通じてのみ獲得できる特定の起業スキルが存在すると説明しています。例えば、実際に事業を運営することで得られるリスク管理能力や市場性の評価能力など、実践を通じて身につかないスキルがあるのでしょう。雇用形態での副業では、こうした起業に直結するスキルを習得することが難しいのかもしれません。

この研究結果は、起業を促進するための政策立案にも示唆を与えています。副業一般を推進するだけでは起業促進効果は限られており、特に「副業起業」という形態を直接的に支援する政策が必要だということです。

副業起業は失敗を減らす

「起業したいけれど、失敗するリスクが心配・・・」という不安は、起業を考える多くの人が感じるものです。それに対して、副業として起業する「副業起業」が起業の失敗リスクを軽減する効果があることを明らかにした研究が存在します[5]

研究では、日本政策金融公庫総合研究所が実施した「起業と起業意識に関する調査」のデータを用いて、副業起業の実態とその効果を分析しています。調査は201611月に実施され、全国の1869歳の男女約3万人を対象としたインターネット調査です。

調査データから見えてきた副業起業の基本的な特徴を見てみましょう。調査対象となった起業家のうち、副業起業者は27.5%を占めています。約4人に1人は勤務を続けながら副業として起業しているのです。さらに、副業起業者の半数以上が、起業後に本業を辞めて専業起業へと移行していることも分かりました。

事業内容としては、クリエイター系の仕事、専門性の高い事業、趣味・特技・資格を活用した事業が見られます。クラウドソーシングなどインターネットを活用した受注形態も特徴的です。これらは、本業と両立しやすい柔軟な働き方ができる事業が選ばれていることを示しています。

副業起業者の属性としては、女性や若年層(29歳以下)が相対的に多い傾向があります。起業直前の職業は非正規雇用者が多く、収入の補完として副業起業を選んでいます。起業直前の勤務先は300人以上の規模の企業が多く、大企業ほど副業禁止の規定が強いことが背景にあるかもしれません。

副業起業を選択した理由としては、「勤務収入が少ない」(43.2)が最も多く、次いで「いずれ勤務を辞めて独立したい」(38.5)となっています。このことから、副業起業は収入補填だけでなく、将来の独立に向けた準備としての側面もあることが分かります。実際、多くの副業起業者は事業経営のノウハウ習得や顧客開拓など、本格的な起業準備としての動機も持っています。

副業起業者のうち、後に本業を辞めて専業移行した人々は、最初から専業で起業した人(専業起業者)に比べて業績が良好であることが明らかになりました。業績の指標としては、「事業が軌道に乗っているか」と「年収に対する満足度」の二つが用いられています。

計量分析においても、専業移行者の方が統計的に有意に良好な業績を示していることが確認されました。副業として起業することで、リスクを抑えながら事業の安定化に成功しているということを意味します。副業起業は起業の失敗リスクを減らす効果があるのです。

なぜ副業起業が業績の面で優位性を持つのでしょうか。一つの理由として、副業起業では本業からの安定した収入があるため、事業の成長にかける時間的・精神的な余裕があることが考えられます。急いで利益を上げる必要がないため、じっくりと事業を育てることができます。副業期間中に顧客基盤を確立したり、事業運営のノウハウを蓄積したりすることで、専業に移行した際に円滑に事業を展開できるという利点もあるでしょう。

この研究では、副業起業への意向と課題についても調査しています。勤務者の約2割が副業起業を希望しているという結果が出ており、潜在的な需要の高さがうかがえます。一方で、副業起業を実際に始める際の主な課題としては、「勤務先が副業を禁止している」(33.9)、「体力や気力が続きそうにない」(29.2)、「勤務先の仕事がおろそかになりそう」(28.8)が挙げられています。

これらの課題からは、副業起業を促進するためには、勤務先企業の理解と本人の自己管理能力が重要であることが分かります。企業側の副業容認姿勢と、個人の時間管理・体力管理能力の向上が、副業起業の成功に必要な要素と言えるでしょう。

脚注

[1] 川上淳之(2017)「誰が副業を持っているのか?:インターネット調査を用いた副業保有の実証分析」『日本労働研究雑誌』680巻、102-119頁。

[2] 鈴木紫(2018)「日本の労働市場における副業:米国の労働市場における副業との比較分析」『文京学院大学経営学部経営論集』第281号、37-50頁。

[3] 石山恒貴(2018)「副業を含む社外活動とジョブ・クラフティングの関係性:本業に対する人材育成の効果の検討」『日本労働研究雑誌』691巻、82-92頁。

[4] 熊田和彦(2023)「起業における副業経験の効果:副業起業に着目した実証研究」『日本労務学会誌』第241号、54-66頁。

[5] 村上義昭(2017)「副業起業は失敗のリスクを小さくする:「起業と起業意識に関する調査」(2016年度)より」『日本政策金融公庫論集』第35巻、1-19頁。


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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